「武装錬金」7巻(和月伸宏)(ネタバレ注意!)

錬金の戦士誰が為に戦う


公式発売日からは既に5日が経過してるんですが、僕の住んでいる北の国では店頭に並ぶ日が3日〜1週間遅れになることなどザラであるため(泣)、昨日ようやく発見して購入。


6巻に比べるとストーリーの暗さは薄れているが、全体の殺伐とした雰囲気は変わらず。
よく「戦闘シーンがつまらない」と陰口を叩かれることの多い本作だが、実際、再殺部隊とのバトルが中心であるこの7巻目を読んでみても、平均的なバトル時のテンションは(非バトル時のテンションの高さを差し引いて考えても)低く、いくら駆け引きのディティールを凝らし、美麗な作画やコマ割の工夫に務めても、血沸き肉踊るような鼓舞感は微塵もなく、ただ殺伐とし淡々とした空気のみが伝わってくる。
それは読み手の感情を煽り、「あの憎っくき敵をブチ殺せ!」と叫ばせる事を目的とするバトル漫画においては、確かにどうしようもなく失敗していると思う。ライナーノートで和月氏は「(戦部のバトルは)ビジュアル的なはったりのためか好評だった」と嬉しそうに語ってはいるが、そもそも中身でなく見た目(ハッタリ)でしか読み手の興味を引き付けられないということ自体、この漫画が「バトル漫画として」2流であると言わざるを得ない証左の一つなのではないか?フツーの漫画なら、敵キャラの能力だのビジュアルだのよりも、その悪辣さ、敵役としての憎たらしさを演出することに紙面を割く筈だし、またそれが成功していれば賞賛されるはずだ。荒木飛呂彦の名作「ジョジョの奇妙な冒険」の第三部で、承太郎のやった「連続3ページオラオラ」が読者に熱狂をもって迎え入れられたのは、スタンドのアイディアやビジュアルが優れていたからではなく(勿論それもあるが)、オラオラを食らったスティーリー・ダンが(読者にとって)救いがたく憎たらしい人間のクズだったからである。読者が承太郎に感情移入して「やっちまえ!」と叫んだからこその、暴力のカタルシスであり、またバトル漫画の快感なのだ。


武装錬金」にはおおよそ無条件で憎める悪役というのが存在しない。L.X.E.編までの人食いホムンクルスでさえ人間的な愛嬌のある奴らとして描かれていたし*1、最終ボスのヴィクターはやむにやまれぬ人間的な宿命を背負った男であり、この再殺部隊編に至っては敵は「主人公のかつての師匠」や「本当は仲間として戦うはずだった錬金の戦士たち」なのである。彼らはジャンプ漫画的な要請から、ある程度は勿論「倒すべき敵」として描写されるのだが、本質的には全く悪人ではないし、また劇中で憎憎しげに描かれることもない(犬飼はヘタレだし円山と戦部はただの変人だw)。当然、彼らを倒しても「バトル漫画的な」カタルシスなど生まれようもない。これは必然的なものだし、そして意図的なものだと思う。
武装錬金」が主人公の正義を無条件に肯定するような漫画ではないのは前巻の衝撃的な展開からも明らかであるし、また「敵を倒す/殺すこと」ではなく避けがたい宿命としての戦いの果てに何が待ち受けているのかをテーマとする漫画*2だからこその「カタルシス不在」であり、「徹底して非バトル漫画的なストーリー展開」なのである。「バトル漫画であること」が人気作であることとほぼイコールであるジャンプで人気が出ないのは、言ってみれば当然だ。この漫画の目的は「バトルを描くこと」ではなく、「バトルを通じた人間ドラマを描くこと」なのだから。


カタルシス溢れるストーリー」だの「迫力の戦闘描写」だの、昨今流行のビジュアル系バトル漫画によくある陳腐な惹句だが、そんなもんはそれしか売りのない三流漫画家に描かせておけばいいのだ。和月氏が描くべきは、そうだ、敗北した犬飼を見つめるカズキの眼差し。嫌悪でも軽蔑でもない、怒りと悲しみと希望と絶望とが複雑に入り混じった表情、コマ割りは2巻のパピヨン撃破時のそれをも思わせて、あまりにも哀しく、美しい。




以下、気がついた点を箇条書きで。
・↑のような事を書いた舌の根も渇かぬうちにこんな事を書くのも何だが、55話「レイニーエモーション」の火渡さんはあまりにも悪の顔をしすぎてて(笑)、戦闘時のカタルシスが皆無かというと全然そんな事は無いような気もする。まあ剛太のバトルが面白いのはポスト「ジョジョ」な駆け引きの妙に拠る所がかなり大きいんだが*3
・63ページの3人の後ろ姿は本視掲載時から大好きだったシーン。ライナーノートのコメント「でも少年漫画では地味では駄目だ」そここそが貴方の良さなんだからもっと自信を持ってください(笑)。
・好例のキャラクターファイル・今回のフィーチャーされたのは大活躍の剛太。血液型ABかよBかと思ってたよ(←偏見)、特技「斗貴子のためならエンヤコラサ」ってまったく・・・・ん?誕生日:4月19日・・・・・ぼ・・・・僕と一緒だー(゜Д゜;)!!(注:ヒトラーは4月20日生まれ)これは何だ?「将来お前は凶暴女に恋をしてフラれるという予言か?畜生こちとら剛太みたいなイケメンじゃねぇんだよ!そもそも機会に恵まれないよ(泣)!
・気を取り直して本編73ページ、剛太に「俺が先輩に言わせたいのはそんなセリフじゃない」と言われてまんざらでも無い表情の斗貴子さん。やっぱりこの女かなりの曲者なのでは・・・・萌え方面で言われてるような純真乙女じゃなさそうだなあ。あ、↑の記述を読んで僕が斗貴子さん萌えな人だと思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、実は僕あんまりこのヒト好きじゃありません。胸ないし(重要)。
・自分の弱点をベラベラ喋る犬飼、指摘があったなら直せばいいのに・・・セリフ数点変えるだけでかなり印象が違ってくるはずだと思うんだけどなー。どうも最近の和月氏のネーム過剰症候群の原因はよく分かりません。別に説明なんてせんでも分かると思うんだが・・・特に「武装錬金」なんて子供読者より大人に人気あるのになあ。
・61話「Which is MONSTER」、本紙で読んだ時から凄いと思ってたけど単行本で読むとまた格別だな・・・・コマ割り、台詞、ストーリー、全て完璧。このクォリティが毎回保てれば漫画評論家にもシカトブッこかれないで済むと思うんだが(苦笑)、まあこの毎回のムラの激しさあっての「武装錬金」とも言える。
・ライナーノートを読んでも最大の関心所「カズキの心境の変化」についてのコメントは一切なし。やっぱり本編があんな状態だからこれからどうするか決めかねているんだろうか?剛太のパーティー参加以後わざわざカズキの心理描写を絶っているのは絶対に理由があると思っていたのだが・・・まあこれは次巻で明かされるのかな。



武装錬金 7 (ジャンプコミックス)

武装錬金 7 (ジャンプコミックス)

*1:これは武装錬金ファンサイトにおける金城や陣内の扱いを見れば分かる(笑)。ちなみに例外は学校を襲ったホムンクルス調整体群だが、彼らは言ってみればバタフライに操られるロボットだったので人間味が無いのは当然と言える

*2:お気づきと思うが、これは「るろうに剣心」以来脈々と続く和月漫画全てに通底するテーマでもある

*3:話がズレるが、ジャンプにおいて「ジョジョ」のような「駆け引きを重視したバトル」に拘る漫画が、現状デスノートしかないっていう状況は、武装錬金のような「ドラマ重視のバトル漫画の不在」よりもよっぽどヤバい事かも知れないと最近思っている。需要は確実にあるのに、何故誰もやろうとしないんでしょうか?「能力バトル」はあちこちでパクられたのになァ・・・