ゆらゆら帝国「Sweet Spot」(ネタバレ注意!)

あまり使途のなさそうなバッヂ


1.2005年世界旅行
2.ザ・コミュニケーション
3.ロボットでした
4.急所
5.タコ物語
6.はて人間は?
7.貫通前
8.スイートスポット
9.ソフトに死んでいる
10.宇宙人の引越し


本当はもっと後に回すはずだったのですが、聴いているうちに湯水のごとく言いたいことが溢れてきたので急遽予定を変更して感想を。

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トラックバックでコミュニケーションに溺れるブロガーの紳士淑女の皆様コンニチハ!僕は磯に住む善良なミズダコです。クネクネ!(わらい)光った赤いメロンみたいな縞縞模様と白く軟らかで隠微な姿態がチャームポイントです!さて僕は最近二枚貝のサクラちゃんにハートブレイクしてしまいまして積極的にアプローチしてるんですけど何故かいつもすんでのところで逃げられちゃうんです!僕が脚の付け根の大口を広げて待ち構えているのを見ると生命の危険を感じるとか言ってます意味が分かりません!僕の触手にエロスを感じない女はそうそういないはずなんですけど彼女実はボーダーで自分の殻に閉じこもってるんでしょうか?ホタテガイ並みのスピードで泳いで逃げ回る彼女の姿はドジッ子っぽくてチャーミングなんですけどね!萌え萌え!かといって僕とて性欲旺盛なオスなのでいつまでも女が捕まらない毒男ライフに甘んじるわけにもいかず、mixiでイソギンチャクの女の子を引っかけて文字どおり食いまくる毎日です!最初はコククジラの写真を使ってたんですけど何故だか新聞社のヘリが追っかけてきてウザくてたまらないので急遽この写真に摩り替えたら眼鏡で巨乳の美少女がわんさか寄ってきて気分はイチャイチャパラダイスです!でも僕時々この現実がすべて妄想の嘘ではないかと煩悶することがあるんですけどこれってセカイ系って奴でしょうか?でもいいんです、僕はマトリックスザイオンのどちらかを選べといわれたら迷わず前者を選ぶ男ですから!冗談じゃありませんよあんな黒人のハゲ親父と一緒になんで世界の為に戦わなきゃいけないんですか馬鹿馬鹿しい二次元の世界で女の子と乳繰り合う方がよっぽど幸福ってもんですよレッツ・エロゲー!!みんなやさしくなでてあげたいウソほんとは食べてみたいイエー・・・・・・・


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・・・・・・・・とまあ、悪質な冗談はさておき、相も変らず馬鹿げたジョークと真剣な批評的態度が入り交じったような独特の世界を描き出すロックバンドゆらゆら帝国の新作「Sweet Spot」。実質的な前作となる「ゆらゆら帝国のしびれ」にあったような加工系のサウンドがさらに徹底された結果、逆に初期のアルバムのような粘着質な肉感を手に入れる事に成功している。


Exciteミュージックのインタビュー(必読の内容!)にもあるが、「しびれ」が無機質で非人間的な血の通わない冷たさに満ちた作品であったのに対し、本作の音は「ヘッド・ミュージック的な感じはキープしつつボディも来」るような温血な肉体感覚とリアリティに満ち溢れていて、喩えるなら感情のある機械の奏でたような音になっている。
これは「しびれ」の音がいかにも人工音的な「自然には出せない音」を中心としていたのに対して(「貫通」のヘンなポコポコ音とかね)、今回は機械で作られた音であってもできるだけ自然音に近い感触に近づけられている事との差異でもあるのだろうと思う。一音一音に悲しみ、怒り、痛み、或いはやすらぎのような人間的感情が込められていて、「しびれ」にあるような聞いていて空しくなるような空虚さはほとんどない。
全ての文節で徹底的に韻を踏み、理屈よりも感覚を重視した歌詞のナンセンス具合も、上記したような空想的でありながら現実的な肉体感覚を補強する役割を担っている。流石2年間暖めていただけはある、細部まで考え抜かれた完成度の高い一作。少なくとも僕は「Ⅲ」「しびれ」よりずっと好きです。


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以下、個々の収録曲について箇条書きで。

2005年世界旅行
本作に収録された曲の中では最も空想性の強い内容にもかかわらず、陰鬱な絶望感が全編を支配する作品。「どこだってすぐ行けるんだ 羽さえあれば行けるさ」と歌う歌詞には、どこへでも行けると言う希望よりもそこまで行く力を持てない絶望が漂う。人間はどんな努力を積んでも、人間である限り羽を持つ事は出来ない。これぞ希望格差社会・・・・と言ったらいくらなんでもこじ付けが過ぎるが。
次々と列挙される国名が「アメリカ」に始まって「イラク・フィジー」で終わるのには何か意味があるのかな。


ザ・コミュニケーション
インターネットのコミュニケーションについて何か言いたい人は必聴の内容(笑)。「世界中で繰り返した 普通に話がしたい」という歌詞の切実さが胸に染みます。半音ずれているようで実はピッタリ合っている演奏のテンポの取り方も素晴らしい。


ロボットでした
アルバム全てを象徴するような実験的要素の詰まった一作。長ーい間奏のメロディはまるでプログレです。僕は前半の地味なリズミカルさが好き。


急所
123とスローテンポのダウナーな曲が続いた後に突然襲い来る正統派ロックンロールナンバー。「君をあやつることは出来ない」と歌うサビのカッコ良さ加減はアルバム中でも随一です。他の曲と同じく音にはかなりの加工が加えられているにもかかわらず妙にライブ感漂う演奏も非常に良い感じ。


タコ物語
アルバム一番の問題作・・・・・というか問題児。「ラブと言ったら君は逃げた」と歌う冒頭から既に爆笑、全編を貫く意味の分からないテンションの低さに腹がよじれるほど笑った。磯に住む善良なタコ君の毒男ライフが異様な迫力で描かれます。
「彼女が出来なければ即餓え死に」と言うシビアさ加減が涙を誘う。頼むから誰か彼に二次元の彼女を与えてやってください。


はて人間は?
「貫通前」とセット扱いの軽快なナンバー。軽ーく聞き流せてしまう一作ながら歌詞は真剣で奥深い。「黄ばんだ視界を鵜呑みにしている・・・はて人間は?」のワンフレーズには現代への風刺が込められているようにも・・・なんてね。
音の加工は控えめで、アルバム収録曲の中では最も生演奏に近い感触になっています。


貫通前
「Ⅲ」あたりに収録されても違和感の無い明るくポジティブな音が印象的な作品。「めまい」の「恋がしたい」以来のゆらゆら帝国による前向きなラブソングと言えるかも。邪悪な「貫通」と対比して聞き比べてみるのも良いかもしれない。


スイートスポット
哀歓と郷愁の漂うメロウナンバー。基本的に「しびれ」の路線を踏襲している本アルバムの中では唯一「めまい」路線で責めた作品と言えるか。「秩序」「孤独」といった言葉の使い方が少々安易にも思えるが、まあ曲と馴染ませるにはこれぐらいストレートな方がいいのかも。


ソフトに死んでいる
恐るべきインパクトを誇る怪作。全編全く生音が聞こえない徹底したいじりっぷりにも関わらずこの心臓を鷲づかみにされるようなスリリングな迫力は一体どこから・・・・インタビューでも言われてますが、普通に聞いたらほとんど怪獣行進曲です。伊福部昭もびっくりのSFファンタジスタ!必聴。


宇宙人の引越し
ベストアルバムに収録されたボーナストラック群、特に「イエスタディ・ワンス・モア」の系統を継ぐ情感系ナンバー。逃避的な感じはしない「引越し」にはただ別な場所へ行くだけという、ゆらゆら帝国の更なる変化を示唆しているようにも思えます。この一作を残して引退しなくて良かった(笑)。



Sweet Spot

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