「Perfect Promotion '05」感想・その1(「Perfect Promotion'05 OP」「でぃばーじぇんと・ふろー」「Focus」「Function 4 F.」「二兎追うものは it isn't」「大嫌い」)(ネタバレ注意!)

5月27日から2ちゃんねるFLASH・動画板にて開催された同イベントの感想です。現在、OP含めて6作品が公開されています。

漆黒の背景に、深海に向けて静かに沈んで行くかのようなオープニングシークエンス。やがて水面に落ちる雨音にも似たピアノの旋律が流れ出すと同時に、やさしく囁くように観客に語り掛けて来るテクスト。曲調の変換と共に画面が一転し、怒涛のようなイメージの洪水が溢れ出す様は、いつかの傑作すら思い起こさせるエモーショナルな快楽に満ち溢れています。


テクスト部分と画像部分を別な方が担当したようですが、「声も上げずに身を震わせた」の言葉に象徴されるような、「見る側」の視点に立った作品製作を行ったのも演出上の勝因の一つでしょう。観客の「見たがっているもの」を強く意識し、自分が見たいと思うものを自分で作って行くという姿勢は、なるほど多くの観客をイベントに没入さすべきオープニングには最も相応しい態度だと言えるかも知れません。
作者自身の「夢」をそのまま現出させたような混沌としたクライマックスもそのことの証左になるかな、と思いました。

「出来るだけオタクっぽくない作品にしたかった」との作者氏の言、なるほど爽やかな印象を与えるライトな色使いにモダンなデザイン。さりげなく登場するマグカップや小物の「オシャレ感」もオタク的なイメージを払拭するのに一役買っています。おそらく声優さんが歌っているのだろういかにも美少女ゲームのテーマソングっぽい音楽も、映像の流れに意識を任せれば軽快なテクノポップに聞こえて来ることもあるとかないとか。


出来るだけ歌詞の世界を再現したかったのが伝わる画面展開といい、最後に「これは面白いゲームだから買ってね」と注釈が入るところといい、この「PP05」の提出作品では最も正しく「宣伝用Flash」として成立している作品で、作者氏の元ネタに対する愛着の深さが伝わってきました。あえて欲を出すならば、もう少し(モチーフとなったゲームの)内容的なことにも触れてほしかったのですが、そうすると作品が「オタクっぽく」なってしまうからアウトなのでしょうか?(元ネタのゲームを知らないのでよく分からないのですが・・・)

アニメ系とMG系の間を揺れ動きながら最近精力的に新作を発表していた迷い猫氏の新作ですが、今回は両技法の野心的な融合を図った様子が見て取れます。ややデフォルメがかった主人公のデザインと写真画像をふんだんに使った背景の狭間には、現実と非現実を混交させ、作中世界を「混乱」の海に投げ込む意図もあるように思います。


中央に一本芯の通った「Focus」を作り出そうとする画面の動きが、やがて溢れ出した「混乱」に飲み込まれ「焦点」を失って行く様は、あまりに直喩的で氏の作品らしからぬ感じもしましたが、単純なテクストの応酬でなしに論理的事象を表現し得たという事実は一定の評価がされるべきものでしょう。混乱を混乱のまま投げ出さず、とりあえずの「収束」を与えて世界を閉じるラストシーンには、観客をおいてけぼりにしない作者氏の優しさが滲んでいるようです。

タイトルの「Function」はこの場合「関数」を意味するのでしょうか?一つ一つのシンボルが手を繋いで戯れているような、関係性を持った連鎖の感覚が印象的な作品でした。


冒頭で観客が目にするのは素朴な一輪の花。積み取ってみようと思わず手を延ばすと「おや?」掌から花がすり抜けて行く音。やがて花と背景は完全に分離して独立的に動き出し、二次元と三次元が交差したような奇妙な空間感覚を観客に認識させます。3Dを取り入れた大胆な画面の遊びには、大きく広がる青空を浮遊するような快い味わいがありますが、無限に続くイメージ映像とともに観客をやや心もとない気持ちにさせてしまいます。
しかしそれを不快に感じないのは、どれだけ遠く離れていても繋がっているような捩れた距離感が作中世界を「統合」しているためなのでしょう。

んーと次はどんなムービーなんだろう・・・おっwmvファイル、しかも実写!これは野心的な作品なんじゃねーかえーと感想になんて書こうかなあの可愛らしいスリッパが作中世界とミスマッチで印象的で・・・なんか違うな・・・・(半分ぐらいまで進む)・・・・・おかしいぞこれそもそもPVじゃないっていうかひたすらスケボーの練習をしているだけのようないやもしかしたらこれも前衛的な試みなのだろうかBGMで流れているどっかで聞いた覚えのある嫌に陽気なサンバには隠喩的な意味が込められているのでは・・・・ラストはどうなるんだろうえっ終わり!?!」・・・・失礼しました。


作者氏が画像投稿サイト「pya!」に投稿された「家スケボー」という作品の続編のようで、これだけ体を張った挑戦は素直に認められるべきだとは思うものの、正直なところなぜ「Perfect Promotion'05」の出場作品として提出されたのかよく分からないのですが、一つぐらいはどこをどう見ても普通の「PV系」「MG系」と呼ばれる作品とは違う異色の作品を入れておくべきとの判断からだったのかもしれません。しかしそこでPVどころか「アニメ」ですらない作品を持ってくるのはいささか無茶な感じもしますが(笑)。

・・・・・・パンク!


例の本(やっと読み終わりました。感想はそのうちに)にも記述がありましたが、かつては「公の目の届かない場所」としてアンダーグラウンドの温床となっていたインターネットは、接続環境の整備に伴う「ネット人口」の激増や03年のブログブームなどの影響ですっかり「闇」の部分が消えうせ、露骨にアングラ的な行いをするサイトはあまり見かけなくなりました。しかし、それでもなお残るネットの最も反社会的な部分、自意識過剰な被害妄想とそれから巻き起こる他者への容赦ない攻撃は今でも様々なところで目にしますし、本作に描かれたのは間違いなく、そうしたかつて精神系アンダーグラウンドサイトで行われていたことの批判的な継承だと思います。
自己への絶望から生まれる他者への嫌悪と止めることのできない破壊願望、それが妄想の世界を経てやがてわが身へ降りかかる様を全力で表現した本作のストーリーは、決して万人に受け入れられる性質のものではないでしょうが、全画面表示を巧みに使った技術的な革新性も含めて、パンキッシュで刺激的なホラーFlashの傑作として広く世に認められるべきだと思いますし、こうした作品を無視したり嘲笑したりする態度は成熟した大人の取るべきそれではないと考えます。


町山智浩氏のブログで以前紹介されていたミネソタ高校銃撃事件犯人の作ったFlashアニメとの共通項などを鑑みるに、作者氏がどこまで「マジ」でこの表現を行ったのか不安になる部分もあるのですが(汗)*1、そもそもこれだけテクニカルな作品を作れる方にはそのような心配は無用かも知れません。いやはや、とんでもない作品を見てしまいました。


関連エントリー「Perfect Promotion '05」感想・その2

*1:強烈な印象を残すあの「傷」は特殊メイクらしいです(リンク先の下の方を参照)。