今日のFlash・後追い版(「PERESTROIKA」「GUST」「魔女の妹」「空-kara-」)

フランスアヌシー映画祭インターネット部門にて出品された青池良輔氏の新作です。
作品審査中という状況から取り上げるのを避けていましたが、公開を終了されたようなので感想を書いてみます。


「CATMAN」でおなじみの写真素材のスマートな流用はそのままに、アニメ部分をパペット風に加工することで、ヨーロッパのアートアニメーションのような洗練された画作りが為されています。そのまま4時30分からのNHK教育で放送されていても違和感のない細かな配慮の行き届いた動画はまさしくプロの仕事。作品世界の外堀をさりげなく埋めつつ、必要以上に主張しないオシャレなミニチュア・インテリアも、ヨーロピアンな世界観をより強固なものにしています。


こうしたいかにも西洋風なガジェットを用いつつ、東洋の「ハリ」をストーリーのキーアイテムとして用いるあたり、徹底した理詰めの論理による作品制作を信条とする作者の、海外の評価を強く意識した巧妙な計算を感じるのですけれども、それが鼻に付かないのは、作品の良い意味での「チープさ」「俗っぽさ」が一種のポップスとして観客に「愛嬌」を振りまいているからかも知れません。ここには強く自己主張する「センス」はあっても、それをもって見る側を見下すようなスノビズムは感じられません。


それにしても、内容を見た後だと「ペレストロイカ」というタイトルそのものが絶妙な皮肉となって心に後味悪いものを残しますねえ。やる気無し浮浪者!お金無し!死にそうになってもろくでなし!だから林檎あげても意味は無し!日本語ラップはカッコ悪!ハリにいく前に冷静に!

架空世界の飛行機レースを描いたハイクォリティGIFアニメーションです。
世界観に既存アニメーションの影響がちらほら見られますけれども、商業アニメに詳しくない僕は、何故か雷句誠の「バードマン」を思い出しました。


今の自主制作アニメーションにおいてはGIFは主流とされるツールではありませんが、コマアニメを一枚一枚描画しなければならないという物理的制約は、一見非常に不便に見えてその実既存のアニメーションに極めて近い「動画」そのものの魅力を抽出するには絶好の条件でもあります。作者氏本人による丁寧な制作日記などを読んでも、描画・演出・ストーリー構成あらゆる点で誤魔化しの効かないガチンコのアニメーション制作は安易にツールに頼らないアニメーターとしての腕前を磨くにはこれ以上無い経験でしょう。


モノクロであることを除けば殆ど商用アニメと遜色ない「GUST」の描画クォリティは、これを原型としたさらなる傑作の誕生を予感させるには十分なものなのですけれども、それが同じGIFアニメによって為されるのか、それとも全く別な形態を持って為されるのかはちょっと現時点では読めません。当然ながら、活動漫画館の成功例を見ても、安易に他のツールに流れる事が必ずしも良い結果を生むとは限らないのですけれども。

毎日新聞発行のフリーペーパー、「まんたんブロード」にて連載中の同名漫画をFlash化した森野あるじ氏の新作です。


飛び抜けた描画クォリティの高さとキャッチーなキャラクターの魅力を差し引いて考えてもなお溢れ出す世界観の魅力がいかなるトリックで生み出されているのかを解明するには、設定は典型的な少女向けファンタジーのそれながら、デザインと演出は完全にジュヴナイルSFの文法に基づいて作られている作風の奇妙な二重性がそのキーとなりそうです。森野氏が過去辿ってきた遍歴、「つきのはしずく」、「YUKINO」、「The Mother Mars」、そして本作に続くファンタジーとSFのギリギリの境界で綴られてきた作品性を考えれば、それがやがて両要素の「融合」に繋がるのは自然な成り行きではありますけれども、それがアニメとしてではなくWEBコミックを媒体として表現されていることには不思議な偶然を感じます。


本連載が終わるまでは新作の発表は見込めないでしょうけれども、森野氏が「アニメーター」として次に何を描くのか期待せずにはいられない内容となっています。新作を見ながらいきなり次を望むのもおかしな話ではありますが、本連載の帰結を含めた今後の展開には大いなる嘱望が集まる事でしょう。

青春詩の世界を表現したMG系Flashです。


その断片からは明らかに何らかの意味性を持っていることを匂わせながら、個々の「言葉」が断絶して文章として結合できずに漂う様からは、それ自体が結果として(言葉として)無内容なハッタリであることを感じさせ、「空」というタイトルの意味が作品のシニシズムとともに観客に伝わってきます。無意味であることに開き直っているにしてはあまりに精巧なビジュアル面の達成が、余計にそれが「空」=フェイクであることの虚しさを印象付け、詩の生み出すペシミスティックな世界観を補填しています。


ロックバンドNINE INCH NAILSの名曲「Frail」に乗せて綴られる、過剰なまでに繊細で目的もなく右往左往するストーリーは、それ自体が青春の苦悩の表現のようにも思えてきて、個人の好みは別としてもなかなかに真に迫るものを感じます。現在進行系で青春を送っている人々にも、既にそうした時期を通り過ぎた人にもお勧め出来るクールな逸品です。