「裏Perfect Promotion '05」感想・その1(ネタバレ注意!)

先月28〜30日に開催されたイベント「Perfect Promotion '05」(当サイトの感想はこちら)の裏イベントです。
発表順に順次作品感想を書いていきたいと思います。

アコースティックの音色に併せて空想的なポップワールドが展開するシュールな作品です。


BGMに舵取りの役目を背負わせている部分も見られるものの、断続的に訪れるクライマックスに合わせて韻を踏むようにスタッカートを切るカメラワークはリズミカルで美しく、雨後の大地を傘を片手に跳ね回るような陽気な活力と生命感を作品に与えています。作中テーマを象徴するようにふんだんに用いられている春の草花や空の映像にも、季節柄見ていて小気味良いものを感じました。
よく、Flashアニメへの悪口で「ちっとも動かない(アニメーションしない)」などというものがありますが、本作では写真素材などをコラージュ的に組み合わせることで、絵自体が動かなくても画面そのものを動かすことによる「アニメ」のダイナミズムを生み出すというポップアート的なアプローチが為されており、上映時間中退屈する事なく作品世界にのめり込む事が出来ました。


上記したような動画方面の達成も卓抜なのですけれども、本作で特筆すべきは画面を作るために用いられている様々な素材――絵であったり写真であったりCGであったり、それらがお互いに個性を殺しあう事なく同居し、急激な画面展開にも不自然無く対応して作品のリズム感をかえって引き立てているという事でしょう。特にフレームにして約1150〜2000の間の、手書きの背景によるポップな昼の風景→「rainbow rainbow」の冒頭を髣髴とさせるシックな夜の都会→少女のイラスト+写真画像の融合の画面と、それぞれ趣の全く異なる3つの場面が違和感無く接続して抽象的なストーリーを紡ぎ出す様は素晴らしく、本業はウェブデザイナーだという作者氏の画面構築における高度なバランス感覚を感じました。

円周率を表現した奇妙な作品です。


ジャジャジャジャジャンジャジャジャジャンジャジャジャジャンジャジャジャジャン3.141592AH!6535OH!YEAH!はブルーハーツの「キューティパイ」ですが、作者氏はどちらかというとマーシーよりもダーレン派なのか、円周率始めとする作中の数式はとことんダークで不気味なイメージを持ったものとして描かれており、ハイテンポなテクノをBGMとして用いつつもアッパーな気質は微塵もなく、暗鬱な雰囲気とともに淡々と流れていく画面には、中毒性のありそうな良い意味での不健康さが漂っています。


ただ、奇しくも上記した映画「π」の特徴にも繋がるのですけれども、作者氏本人も述べられているように、そのような数式を羅列することで何を表現したいのかが不明瞭であるために、作中のテーマがぼやけてしまい全体として奥深さの感じられない作品になってしまっている嫌いがあるように思います。つまり、円周率始めとする数値群を単なるMG上のアイコンとしてデザイン的に用いるのか、ストーリー的なものを含めた表現テーマとして掘り下げていくのかがはっきりしていないために、結果としてどちらの見方をしても消化不良感の残るものになってしまっているように見えたのが、表現上惜しいことに感じられたと言う事です。
パワフルなBGMと弄り甲斐のありそうなテーマに着眼したところは良かったので、次回はそれらの素材を存分に生かしたボリューム感のある作品を期待したいと思いました(なんか偉そうな言い方で申し訳ない)。

スクウェアシンボルを用いたシンプルなMG作品です。


真っ白の背景に縦横無尽に蠢くスクウェアシンボルの不可思議な迫力からは、em氏による表PP出品作「denotation」を想起しましたが、本作はem氏の行ったデザイン的なアプローチよりもむしろその名の通り純粋に「動き」の面白さを追求することを目指しており、また余分な要素のないストイックなプロダクトが上記目標を見事に成功に導いているように思います。


約0〜750フレームまで続くオープニングと、シンプルな■の流れが続いてゆく〜約1950、劇的に画面が躍動していくクライマックスと、作品全体が3つほどのチャプターに分けられるように思えたのですけれども、まず静的なオープニングシーンで興味を煽り、次に突然の■の応酬+少しづつ空が水色に染まっていく叙情的な背景演出で一気に作中世界に引きこみ、クライマックスで思い切り作品と一緒に観客を「躍らせる」、巧妙なシーン展開が見事で、見終わる頃には僕はすっかりあの謎の■に魅了されていました。
ド派手な仕掛けやハッタリが無くとも面白いMGは作れるという好例でしょう。


中盤〜クライマックスのシーンにおける、シンボルの重ね合わせによる奥行きの表現も、一見非常に単純なようでいて、作品世界を拡充する重大な役割を担っているように思いました。小手先の技の連発のように見えても、よくよく見れば一つ一つの要素を統合して大きな結果に繋ごうとしている様が読み取れる、作者氏の努力の跡に好感を持ちました。

DTMミュージシャンonoken氏の一癖も二癖もある楽曲の世界を見事に表現しきったミュージッククリップ的大作です。


外部ファイルを一切使わないという過酷な制約が付加された作品故に、JPEG画像等は一切使われていないのですけれども、それがかえって人肌の温かみが全く無い機械的な世界観の醸成に一役買っており、全てのシンボルがコンピューターで統制された規則的なアクションを繰り返す度に、作中の虚無感と焦燥感が一層募っていく恐ろしい仕掛けが為されています。


全編を支配する意味不明な英文、爆裂するバーチャルの砂漠や鉛色の都市といった破滅的情景、空飛ぶ紙飛行機、切断される巨大なグラフ、断続的に飛びまわる謎の円系シンボル、全てが「優れたMGムービー」としての本作の迫力とムーヴィングの面白さを背負い込みながら、なおかつ自己自身すら冷たく突き放し否定しているかのような矛盾、これらは元々3DCGの作り手だという作者氏のドライな筆致の上でのみ成立しうるもののようにも思え、そのオリジナリティと高い技術に支えられた世界観は、たとえこうした作品が肌に合わないという人でも認めざるを得ないだろうレベルに達していると思いました。



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