「裏Perfect Promotion '05」感想・その2(ネタバレ注意!)

6月28〜30日に開催された同名イベントの感想です。
このエントリーは前回のエントリーの続編になります。

予想通り高fpsのMG作品が中心となった本イベントのラインナップに、あえてほのぼのとした環境系の作品を加えたかったという意思は伝わるのですけれども、前作「鮪 −まぐろ−」と比較すると題材のユーモアも作品自体の作りこみも十分とは思えず、やや内容及び見た目のインパクトに欠ける作品になってしまっていたように感じました。
題材をストレートに描写するだけではなく、それから発展した表現、例えば金魚をクリックすることによりインタラクティブな仕掛けが発動したり、途中から突然ノーマルなMG的作風に移行するなどの工夫があれば、より面白みとオリジナリティのある作品に仕上がったような気がします。

頽廃的な魅力のあるノワールMGです。


色相のうち「黒」とか「白」とか呼ばれるものは、実は指示対象として「純黒」「純白」のことを指している事が少なくないのですけれども、一口に「黒い」「白い」と言ってもその程度は(他の色と同様に)様々な段階のものがあるのであり、「黒」や「白」を用いてイラストレーション等のイメージ作品を作る作者はそのことを熟知していなければなりません。特別な目的も無しに安易に原色や純色を用いる事はそれだけで「色」の深みを損なわせ、絵画の風味をも不味くしてしまう事がざらにあるからです。


前作でもある「不死蝶」の改変前バージョンから久々の表舞台への復帰となる作者zaq2氏は本作において、明度、彩度、色相の三領域における「黒」のグラデーションを巧みに操り、そこから階層化された「黒」の集合体としての「闇」の情景を生み出すことに卓抜な才能を発揮しています。可視出来ないほどに「闇」の奥深く静められた「不死蝶」の異様と、色彩を喪って灰色の空間に空虚に埋没していくシンボル群は、どこにも目に見える拠り所のない暗黒の迷宮を漂うような錯覚を観客に与え、耐えがたい緊張感に満ちたダーティな世界観を形作っています。


元々BGMに内蔵されているのか不明な見る側の神経を逆撫でする不気味な話言葉や、各所の展開の緩急のつけ方も実に巧みで、6000フレームを超える長尺を静かに牽引しています。ラストシーンに至るまで隙のない完成度の高い逸品です。


ところで、5500フレームあたりで現れる文字が、「King Crimson」「The world」「Bites the dust」「Made in heaven」なのは・・・・じょ、ジョジョネタ?

「狂乱」の名を冠するサイケデリックな作品です。


上映時間30秒という本イベントの中でも最も短い部類に入る作品にもかかわらず、密度高く敷き詰められた約2000フレーム(1秒当たり約67フレーム!)の描画は時間の短さを感じさせないアンコンデンサブルなものに仕上がっています。高fpsを生かして一枚のデザインとしても完成度の高いシーンを次から次へと展開させる贅沢な仕様が魅力的です。


ゴシックアレンジを施したアラベスクのようなファーストシーン(約0〜600フレーム)から、「影は消える、何故ならここに光があるから」という謎めいたメッセージが再び闇に包まれていく間奏的シーン(約600〜900フレーム)、奇怪な文字の羅列から再び最初の擬似アラベスク模様へ場が変幻していくクライマックスシーン(約900〜ラストフレーム)に至るまで、全てのシーンで観客に画面の「中央」を意識させる演出が為されており、じっと見つめていると目が悪くなること間違いなしというかそんな事はどうでもよく、観客に中央のみをひたすら凝視させることによって逆説的に「外部」の激しい変化を実態以上に過大なものに見せており、画面が大きく展開する各シーンの「節目」をより刺激的なものにしています。ある程度パターン化された演出を施しているにも関わらず、作品が単調にならず変化に富むもののように見えているのは、こうした(良い意味での)ブラフの使い方の巧みさにも一因があるのではないでしょうか。


個人的には、折角ここまで強烈なハッタリを仕掛けるのならば、最後に「種明かし」も兼ねた作品世界そのものの派手な「破壊」があっても良いような気がしたのですけれども、尺の短さを考えれば本作のそれのようにスマートで品の良い終わらせ方の方が合理的だったのかもしれません。

創作そのものをテーマにしたメタフィクショナルな作品です。


手書きの描線を生かしたポップな描画により、本来なら作品の調和を壊しかねない大文字のテキストの挿入が、画面デザインの一部として組み込まれてかえってシーンごとの調和を維持しています。描画・創造→実作→完成と流れていく直喩的にFlash制作を表現したのだろう展開は、各々アイディアを思いついた時の明るい高揚感や、実作時の行き詰まりと方向転換、そして完成時の不安と期待の入り混じったアンビバレントな感情を、それぞれビジュアルとテキストを駆使して抽象的に表現しており、作者氏本人がFlash製作者ならではのリアリティが付与されていました。


クライマックス、コンテンツの創造を他人との「繋がり」、コミュニケーションを持つために行うことに意義を見出す独白は、昨今の議論と相俟って賛否両論を呼びそうですけれども、何が動機であれ本イベントのような催しが定期的に行われ、優れた作品が集うのならばそれはそれで構わないだろうという気もします。最も、本作における「コミュニケーション」の表現はあまりに作者氏本人が行っているのだろうそれと内容的に近しすぎて、幅広い共感を得るのが難しいという問題も孕んでいるかも知れませんが・・・・・。


下記に作中で表現されたテキストの英語部分の内容を転載しておきます*1。こんな感想を書くのでも無い限り、スピード感命のMG作品をストップをかけながら見る事は普通の人はしないでしょうけれども、本作のようなテキストの内容を汲み取る事でよりテーマが浮き彫りにされるタイプの作品の場合、こうした内容を踏まえながら見ていくのも一興かも知れません。
「」内が本文、()内が筆者によるいい加減な訳文です。

  • 「START」
  • 「MOMENT」
  • 「REVERSE 裏 Perfect Promotion」
  • 「DRAWING 描画」
  • 「CREATE 創造」
  • 「EXIT」(出口)*2
  • 「NO,This isn't an exit」(違う、これは出口ではない)
  • 「This isn't an escape」(これは脱出ではない)
  • 「ENTRANCE」(入口)*3
  • 「This is a challenge」(これは挑戦である)
  • 「And you aren't alive alone」(あなたは一人ではない)
  • 「LOADING...OK!」
  • 「It's a moment...」(この瞬間・・)
  • 「There is no brand of you」(ここにはあなたの印がない)*4
  • 「"No data"is your brand」(「データがない」事があなたの印だ)*5
  • 「Sunny Funny Days」(よく晴れた愉快な日)*6
  • 「LAST SPURT」(ラストスパート)


本当はこれで終了の筈だったのですけれども、飛び入り作品が何本かあったようなので、もうちょっと続きます(´Д`;)
書くのが遅くて申し訳ない。


関連エントリー「裏Perfect Promotion '05」感想・その1
関連エントリー「裏Perfect Promotion '05」感想・その3

*1:背景などに用いられたはっきりと読めないものは除いています

*2:制作からの逃亡、を示唆するのでしょうか

*3:「EXIT」の文字が上のセリフが出ると同時に変化

*4:オリジナリティが無いことの隠喩?

*5:個性が無い事こそが個性!凄いポジティブぶりです(笑)

*6:作品が完成した日?