今日のFlash・後追い版(「想」「DJラオウシリーズ」「冬の夜道」)

更新停止中に感想を書けなかったものを中心に書いていきます。

恋愛をテーマにしたムーディーなアニメーション作品です。


余計な装飾を取り払ったシンプルな白黒の線描が、一見何の繋がりもない事物へと連想的に変化していく様がユニークです。自分の部屋→テレビ画面→携帯電話→彼女の部屋とテンポよく展開されるシーンはそのまま主人公二人の恋愛模様を象徴しているようでもあり、また並列的に並べられていくシンボルの数々が、やがてありふれた「(現代日本の)日常」の輪郭を浮かび上がらせるに至って、作品のテーマがより明確に示されます。


突飛で非日常的な風景を描き出すためには、まず平凡な「日常」から抜け出した世界観を作り出す方法が一般的ですけれども、本作「想」は「日常」を巧みにアレンジすることによって、逆説的に非日常的風景を作り出しています。これは「男女の恋愛」という「日常」的な作品テーマに照らし合わせれば実に適切なアプローチの方法と呼べるでしょう。

DJラオウシリーズ

北斗の拳」の名キャラクターラオウをDJに仕立てたパワフルなバカFlashです。


DJラオウネットラジオ風の軽妙な語り口だけでも十分過ぎるほどに楽しめるシリーズなのですけれども、特筆すべきは従来のラジオの「音声」に、各要素のオーソリングツールたるFlashを用いて「画像」と「テクスト」が加えられ、音声だけでは味わう事が難しい視覚的要素と(喋られる内容についての)テクスト解釈の要素を加味している点でしょう。最も、各要素について仔細に見ていけば幾つかの欠点を感覚的に批判すること(画像が一枚絵から変化しないのは面白みがないとか、テクストと音声の同期が甘いとか)も可能かも知れませんけれども、本作の構造的な面白さに着目すれば、それこそ「仔細」な瑣末事に過ぎないようにも思えます。


最近のウェブログでも、iTunesのシステムを用いたpodcastingなどの技術が俄かに注目を集めていますが、Flashのようなツールによって従来のオンデマンド配信型ネットラジオで用いられてきたような「音声を録音したmp3を配布する」という手法に今まで無かった新たなる要素を組み込むことが出来れば、またそれが一つの潮流として様式を生み出す可能性もあるかも知れません。
とはいえ、この「DJラオウ」で恐らく用いられたであろうような手法(予め録音した音声に映像やテクストを合わせていく)ではコストパフォーマンスが高すぎて、流行する可能性は低いでしょうし、現在のネットラジオの主流(?)たるリアルタイムのストリーミング配信ラジオに対しては、全く対応できそうなとっかかりが見あたらないのですけれども。

冬の夜道

奇妙なストーリー構造を持った文芸的アニメーションです。


まず、BGMとして採用されている(オリジナル作品らしい)音楽の歌詞を(耳コピですけれども)引用してみます。

寝静まる闇 坂駆け抜けて
白い息弾む夜道
約束の場所まであと少し
白い雪 弾む鼓動


見上げた空に星が光り
僕を導くよ
悴む手をポケットに入れて
君に会いにゆくよ


寝静まる闇 坂駆け抜けて
白い息弾む夜道

アニメ本編を見た方ならお気づきでしょうが、テクストを素直に読み取れば「冬の夜に恋人の元に行こうとする青年の心情を詠んだ詩である」などという解説文がつけられそうな上記歌詞と、アニメーションそれ自体の内容は、同じく「冬の夜道」というタイトルを冠しているにもかかわらず全く違うものになっています。アニメの主人公は人間ですらないただの猫(あるいはそれらしくデフォルメされたもの/ギコ猫ではない!)であり、かろうじて第一段の「約束の場所まであと少し」までは歌詞に忠実に話が進められていくものの、それ以後はどんどん歌詞の世界観を逸脱して、最終的には上記歌詞からは想像もつかない帰結へとストーリーが導かれてしまっているのです。


これらの事項を「単なる作者の(詩の世界を表現できない)怠慢や表現力不足」と切って捨ててしまえればいっそ楽なのですけれども、そういった乱暴な解釈が当てはまらないなと思わせるのは、作中に描かれた「夜」(月の存在から推定されうるもの)の叙景は間違いなく上記歌詞の表現したそれにイメージ的に連動しており、そうでなくばこの(一見作品世界と何の関連性もない)BGMが選ばれたことの説明がつかないからです。
また、上では「歌詞と関連性のないストーリー」と書きましたけれども、よくよく見てみると「見上げた空に星が光り僕を導くよ」と歌われる段では「星ひとつない漆黒の空」を、「悴む手をポケットに入れて君に会いにゆくよ」と歌われる段では「二人(恋人同士?)で寄りそう猫のシルエット化された姿」が、ラストのリピート「白い息弾む夜道」と歌われる段では「白い山(雪山?)の上の猫とその隣に立つ墓標」がクローズアップされており、それぞれ「星」「恋人」「冬」といったキーワードから連想的・対象的に導かれるイメージを表現していることが解ります。


長くなってしまいましたが、上記諸要素から僕が解釈した結論を言えば、本作は「BGMの歌詞をアニメーション表現の為に再解釈」した上で、さらに「”解釈するもの”の手によって(元ネタである)歌詞のそれから恣意的に変形された物語」を表現したものだと考えます。
これだけだと訳が分からないので具体的に言ってしまいますと、明るい内容の歌詞は、デフォルメされている割にクールで現実的なアニメーションの内容を通過してその価値を逆転し、「主人公である猫の過去の思い出」として語られているのであり、「恋人を亡くした猫はいつまでも恋人の事を静かに想い続けている」という(元の歌詞のそれよりも)更に文学的な結末を導く要素となっているのです。