「武装錬金」とネットコミュニティ(ネタバレ注意!)

  • この文章は大分前から書こう書こうと構想を練ってはいたものの、タイミングを逃して書くことができずにいたものです。正直な話、こんなノー天気なハテナダイヤリーなんぞに載せるには似つかわしく無い、(特に武装錬金ファンの方にとっては)暗くてイヤーな話であり、以前からこの漫画を応援してきた自分の態度に対する、半ば自虐的な話なので(実際、下記したような事は殆ど全て自分の行動にも当てはまっています)、お蔵入りにしようかとも思っていましたが、「赤マルジャンプ」に掲載された「武装錬金 ファイナル」を読んで、書くとすれば今しか無いと考え、今回の掲載となりました。
  • 武装錬金」本編の内容にはあまり触れていませんが、多分「武装錬金」という漫画を知らない人が読んでも意味不明な内容だと思います。
  • なお、(上でも書きましたが)「武装錬金」という漫画の「ファン」を自称する方にとっては、相当に不快な内容と受け取られる可能性がありますので、読まれる際にはそのつもりで。
  • 武装錬金」はインターネットで人気の高い作品である。
  • 連載開始当初からブログや2ちゃんねるなどのコミュニティを中心とした盛り上がりがあったし、単行本1巻が発売する頃には巨大お絵描き掲示板サイト「朝目新聞」での投稿作品数が増加し、2004年4月には「武装錬金特集」が組まれた。その流れは今回の「武装錬金ファイナル」に合わせて公開された「武装錬金特集FINAL」まで続いており、連載終了後も依然として人気は衰えていない。
  • 武装錬金」作者の和月伸宏氏は真性のオタクとして有名であり、作品に散りばめられたオタクネタがオタクの注目を集め、結果として(実社会に比べてオタクの比率が高い)インターネット上での人気が高いのだろうという指摘は以前から為されていた。
  • 萌えネタ方面で人気が高いのはヒロインの斗貴子であり、ギャグネタ方面で人気が高いのはライバルのパピヨンである。
  • 武装錬金」はインターネット以外で人気の低い作品である。
  • 連載開始から15週を迎える頃には既に「週刊少年ジャンプ」での掲載位置(=人気の指標)は低位置で安定しており、たまに思いだしたようにセンターカラーを貰っていたりした以外は、連載開始から1年10ヶ月後の連載終了に至るまで、その掲載位地が同雑誌の他の人気作品よりも前になることはほぼ無かったと言っていい。それでも連載が続いたのは、前述したインターネット上のコミュニティに所属するファンによる連載継続運動などがその背景にあったとされる*1
  • 「単行本の売上が絶好調」なんてデマも一時流布されたが、他の人気作品に比べれば大した売れ行きではなかったし*2、「ジャンプ」に連載されているバトル漫画にしては低レベルと言って良い程度のものでしかなかったと記憶している。また、単行本発売1週目の売り上げは好調なくせに、2週目以後になるとガクっとランクが下がる事から典型的な初動型の作品とも言われ、購買層がコアなファンに集中している事を暗示させた。
  • それでもネットユーザーには好評なんだから良いじゃないか!と言われるかも知れないが、ヘビーなネットユーザーが中心におらず学生が多い(=本来のジャンプのメイン購読者層に近い)Yahoo!系掲示板での嫌われっぷりは凄まじいものがあり、世間一般からは殆ど嫌われこそすれ人気を得る事が出来ていないのは明らかであった。
  • 何故このような齟齬が生じ、しかも解消される事なく作品が終了してしまったのか?そもそものズレが生じた理由は、単に「ジャンプのメイン購読者層に(二十歳以上のオタクに受けが良いような)作品性がマッチしていなかった」と言う程度のものだろうが、それ(メイン購読者層と作品性とのズレ)が修復不能なまでに拡大したのは理由があると筆者は思う。
  • ネットサーフィンをしていて「武装錬金」のファンサイトを回ったりすると必ず出会うテキストに「何故(「武装錬金」が)こんなに面白いのに世間に理解されないのだろうか」というものがあり、それは勿論「武装錬金」のファン達の世間への本作の不人気が納得出来ないことへの意思表明なのだが、それが掲示板に書き込まれていて、スレッドツリーを見ていると(当初の発言に対する)「うんうんわかるわかる」というような同意のレスが延々と書き込まれていたりする。
  • これはネット上のコミュニティなどを見ているとよく見かける事態であって、要するに「武装錬金ファンの集まり」というコミュニティに所属している彼らは、何故自分達のコミュニティとその核になっているもの(この場合は「武装錬金」という漫画作品)の素晴らしさ、ひいては自分達のコミュニティの素晴らしさを何故(自分達含む)コミュニティの成員以外の人間が理解しようとしないのか、理解できないのであるが、それはそもそも(特定のコミュニティに所属している)自分達が、自分達以外のコミュニティに所属しているものを無意識に見下すような態度をとっていたり(そうでなくば「これだから世間の連中は〜」というような言い方は出来ないだろう)、自分達の所属するコミュニティ、更には自分達がそこで行っているコミュニケーション行為について全く無自覚であることを、客観的に理解していないから、そのコミュニティを見るときに、外部からの視点=客観的な視点に立たざるを得ない他の誰かが見ても、理解不能で気色悪いものとしか見なされないのである。具体的に言ってしまえば、「斗貴子さん萌え〜」とか「蝶サイコー!」とかの書き込みを、武装錬金ファン以外の誰が喜んで読んでくれるのか、という当たり前の話である。
  • 先ほど筆者は、上で「これはハテナダイヤリーなんかに書く話では無い」と書いたが、「はてなダイアリー」というコミュニティに所属し、「武装錬金ファイナル」について口角泡を飛ばしてオタク的に愛情を披露している人物(自分の事だが)が、自らの行っているコミュニケーション行為に無自覚すぎると言われる事と、上で書いた武装錬金ファンのコミュニティ参加者が無自覚であることととは、殆ど同義と言っていいからである。そこにはただただ、コミュニティの成員同士の「繋がり」を感じさせる為のコミュニケーションが横たわっており、コミュニティに参加できない外部の他者はどこにも居場所がない。
  • 上でYahoo!における「武装錬金」の嫌われようを例示したが、あそこに見られるような「どこかのコミュニティの成員(この場合は「武装錬金」が好きな人)VSそのコミュニティを嫌っているコミュニティの成員(この場合は「武装錬金」が嫌いな人)」の争いというのは、お互いがお互いの行っているコミュニケーション行為に無自覚であるが故に、得てして「テキストサイトvs.ブログ騒動」のような宗教戦争じみた不毛な争いに陥りやすく、そこにはやはり第三者的視点が立ち入る隙間は存在しない。
  • 誤解しないで欲しいが、このようなことはスラムダンクの同人誌を書いている女性ファンにしろ、FFのエロ同人誌をコミケで売っているCG系絵描きさんにしろ、ギャルゲーについて熱く語るコアゲーマーにしろ、それぞれのコミュニティに所属しつつ行っていることであって、広く見れば何もオタクだけではなく、遊戯王カードの数やワンピースのガチャポンの中身を比較し合う小学生だって、こうした「コンテンツ(この場合は漫画など)を媒介としたコミュニケーション」を(殆どの場合無自覚に)行っており、それ自体は全く責められるような類のものではない。
  • それが問題となるのは、こうした(本来コンテンツの付属物である)コミュニケーション行為が、中心となるコンテンツにさえ支配的になってしまった場合である。
  • 武装錬金」は開始当初は実に普通のジャンプ漫画であり、萌え要素やオタク向け要素も、他のジャンプ漫画より少し高い程度にはある(かもしれない)にせよ、作品のメインとなるほどのものでは無かったように思う。そのバランスが決定的に崩れたのは、そして主にオタク界隈で「武装錬金」が大変な評判を得たのは、おそらく単行本2巻のラスト付近でパピヨンこういうことになってからの話である。
  • 別にオタクに人気が出ようが作品で変態が登場しようが、作品自体の方向性が保たれ、クォリティが向上するなら全く問題は無いと思う。が、問題は、読者の意見を人一倍気にし、読者に非常に近い立ち位置にいたがるオタク的性格*3である作者の和月氏が、さらなるオタク向けコア路線へと作品の方向性を転換した事*4であって、それはファンコミュニティにおけるコミュニケーションを、自らを「話のネタ」として消費させることで加速化させることであった。
  • このような人気の(内輪的な)盛り上がりはLXE編における終盤の大復活劇*5を演出しはしたが、一般人(上で書かれた所の「世間」の主要構成員である人達)の人気の致命的な低下を招いてしまい、LXE編終了後に連載当初の方向性に近い再殺部隊編をスタートさせても、上記したようなオタク要素を話のネタとしてコミュニケーションを取ることに慣れたファンに「以前よりつまらない」という批判を食らう羽目になってしまい、結局最終的に打ち切りを免れなくなるまで追い詰められてしまう原因を作ってしまった*6
  • もしも「武装錬金」がコアなオタクのファンだけで十分「元」が取れるような媒体*7で発表されていたのなら、そのファンコミュニティの大きさからして、ライバル作品を遥かに上回る売上成績を記録していたとしてもおかしくなかったかも知れない。しかし悲しいかな、天下の集英社の発行する少年ジャンプという雑誌は、インターネットを積極的に使っているようなオタクを全て無視しても十分に社益を稼げる媒体であって、それにインターネットのニッチなコミュニティで「のみ」歓迎されている作品を、いつまでも掲載させ続けても無意味だったのである。
  • 結局、作品に影響を与え、人気を支えたのもファンだが、そのことによりまた打ち切りの原因を作ったのもファンだったのだ。
  • 以下は個人的なこと。
  • 和月氏は上記したような作品の方向性の転換によって、コミュニケーションによって消費されることの無い、物語的なものを求める読者を裏切った、とも言えるが、それでも僕は「武装錬金」という作品に書かれた物語が好きだったし、それは連載開始当初から現在までずっと変わっていない。
  • ライナーノートなどからの推測であるが、恐らく和月氏は上記したような自分の作品の受容のされ方に、(自作のファンと同じように)全く無自覚だったのあって、それが結局「作品の方向性の定まり方」の不安定さを招いたのだろうと思うが、そのことが逆に「コミュニケーションのネタにされつつも、消費し尽くされないところに一歩踏みとどまっている」とでも言うべき本作の美点、具体的に言えば編集に「学園ラブコメにしろ」と言われてもそれを跳ね除けるような態度*8を生んだのだとも言えるだろうし、実際作品中のテーマは非常に一貫していたように感じる。
  • 描かれたものはもはや修正しようがないが、今回赤マルジャンプで発表された「武装錬金ファイナル」の内容は、萌えネタギャグネタほぼ一切無しの、作品テーマが細部まで凝縮されたものであり、それが尻切れトンボで終わる事すらなく、冬の「武装錬金ピリオド」に続くと言う事が、本紙連載中に散々迷惑を掛けたジャンプ編集部の判断とすれば、彼らの考えとしては単に武装錬金ファンに赤マルを売りつけたいだけなんだとしても、英断と言って褒めても良いのではないかと思うし、またこの作品が最後の最後に、伸び伸びと作中テーマに向き合う事が出来るということを、「ファンとして」素直に喜びたいと思う。
  • 武装錬金ピリオド」の出来次第によっては、今までこの作品について回ってきた「単に(ファンコミュニティに所属する)オタクが騒いでるだけの作品」という評価が根底から覆される可能性も、まだ残っているだろうし、そこからこの作品の残した価値をどう見極めていくかが、これからのファンの仕事になってくるだろうと思う。
  • まあ、増刊に載せるとか言う新作読み切りはつまんなそうでしたけどね。


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*1:「皆でアンケ出そう!」とか言ったり

*2:トーハンランキングの最高位は3位だが(第1巻)、これは他にライバルとなる同時発売作品が無かったためである

*3:そうでなければあの単行本のオマケ量はありえないだろう

*4:具体的にはパピヨンの新コスチュームや、沢田研二の「サムライ」の歌詞の作中引用など

*5:LXE編(単行本3〜5巻)のラスト付近、掲載位置が絶望的に低下したにも関わらず、突如としてアンケートが大量に投入され打ち切りを免れた事件。オタクファンの組織票のためとされており、筆者もアンケートを送った

*6:きちんとした調査をしたわけではないのでアレだが、再殺部隊編以後、筆者が所属していた武装錬金のファンコミュニティでは、明らかに以前より批判的な意見が増えており、その流れは連載終了まで変わらなかった

*7:例えば一部のエロゲーなど

*8:単行本4巻のライナーノートの記述