「Studio MOMO」主催「もも展」感想(「コレクター魂」「TrinTrin 第5話:脱出」「DragonBuster」「未来環境防衛隊ドラゴンマン」「KAGUYA −誕生−」)

CG系コミュニティサイト「Studio MOMO」による展覧会「もも展」の感想です。
作品数が膨大なため、タイプ「Movie」の出品作品のうち、特に秀逸と感じた数作品に限定して取り上げたいと思います。
リンクは「MOMO」の用意したムービーへの直接リンクURLですが、()内に作者氏のサイトを併記しています。なお、どの作品もFlash等に比べると容量が大きいので、ダウンロードの際はご注意を。
9月1日追記:「もも展」終了に伴うリンク切れにより一部リンク先を変更しました。

コレクター魂(立体動画劇場)

フィギュアコレクターのロボットを主人公としたナンセンスギャグアニメーションです。


一応同作者氏の手によるアニメーション「コレクター魂」の続編「不思議体験」編と銘打ってはいるものの(リンク先から第1話も観覧できます)、前作との共通点は同じキャラクターを使っているだけで特に続きものという訳ではなく、冒頭で簡単なストーリーの概要を説明してくれるので、わざわざ第1話を観覧しなくても鑑賞に困る事はないと思います。

あたかもナンセンスギャグ漫画のようなノリで進行する物語と、随所で挿入される既存のゲームやコミックからの引用であろう定型化したベタなコメディ演出が面白く、安心して笑える作品です。アクションアニメとしての出来も丁寧で、派手でコミカルな動作がほのぼのとした世界観とひしめき合う様はギャグを差し引いても見ごたえがありますし、自主アニメとしてはかなりの長尺にも関わらず明らかな手抜きや雑さが見られる部分がない誠実な作りに好感が持てました。


ただ、これは意図的かも知れないのですけど、扱っているギャグのセンスが全体的に古臭いこと(水玉の記号で流れる汗の表現など(笑))、米国カートゥーン風の手法を取り入れて前半は完全にサイレント劇を貫いているにも関わらず、後半に入って(やや蛇足的とさえ言える)ナレーションが唐突に挿入される事などが、作品の統一感を乱す要因となっていたようで気になりました。折角非常に丁寧で解りやすい演出力を持っているのに、作者の意図が伝わらないことを恐れたのでしょうか?

TrinTrin 第5話:脱出(LWeb3D)

同作者氏によるアニメシリーズ「TrinxTrin Series」の5作目です。


これまた上記した「コレクター魂」と同じく独立したオムニバス形式のシリーズで、しかも特に複雑な設定などはない作品なので、元ネタを知っていれば素直に誰でも楽しめると思います……楽しみ方は全く別になってしまうでしょうが。


僕は元ネタを知っている立場から見たのですけれども、単純にパロディムービーとして非常に再現度が高いことや、元ネタにおいては戦闘の決着をつける大技として使われていた技がことごとくギャグ的に空回りされている演出(最後の棒を掴んで大回転とか)がいちいち上手くて、大いに笑わせてもらいました。
また、途中から映画風のスタイルのみならず、格闘ゲーム風のそれも取り入れて、戦闘場面をあたかもゲームの一場面のように見せてしまう事で、全編の徹底した「リアリティの無さ」を逆手にとってシニカルな笑いを生んでおり、元ネタへの批評的意趣返しも兼ねて面白い趣向になっていました。広くはお勧めできませんが、元ネタを知っており、かつあまり良い評価を持っていない人(自分の事ですけど)は見てみて損はないと思います。


しかし、やっぱりあの「アゴが外れる」古臭いギャグは不要でしょう(笑)。上記した「コレクタ〜」といい、ああいう寒いギャグを意図的に取り入れるのがCGアニメで流行しているのでしょうか?(んなわきゃない)

DragonBuster(K.Y.FACTORY)

古典的なRPGに題材を取ったアクションアニメーションです。


まともに描けば何十時間にも及ぶ大作になってしまうだろう題材を出来るだけコンパクトに纏めるため、内容は完全なダイジェスト形式になっており、個別のシーンが淡々と移り変わっていくため、演出のリズム感に慣れない内は戸惑うかも知れませんが、個々のシーンの動画の完成度は大変高く、大迫力のオープニング・シークエンスから映画的な演出で観客を作中世界に引き込んできます。
冒頭のドラゴン襲来のシーンにも明らかですけれども、基本的にデフォルメされた図柄でありながら、大きいものはずっしりと大きく、小さいものはこじんまりと小さく互いを対比しながら描き分けて、またそれぞれを緻密なディティールによりきちんとリアルに見せている作者氏の筆力は確かで、長尺にも関わらずそうした作品の基本線がブレることもありません。


また、RPG的なストーリーということで、リアルに描写した場合ストレートに見せることを躊躇われるような残虐な殺戮が行われるシーンも見られるのですけれども、キャラクターのデフォルメによって過剰に残酷になることを回避しつつ、また一つ一つのアクションを見やすい形にまとめているのも非常に上手いです。主人公チームのそれぞれの武器(剣、斧、魔法)が実にそれらしく描き分けられているのも、ファンタジーの世界に独特のアクチュアリティを与えています。


贅沢を言えば、ラストシーンに至るまで最初の淡々としたリズムが崩れる事なく作品が終わってしまうのには一抹の勿体無さを感じるので、エンディングシーンで一盛り上がりつければ、より作品全体の洗練度が上がったのではないかと思います(そこまでやる余裕がなかったのかも知れませんが)。

未来環境防衛隊ドラゴンマン*1(ドラゴンマン動画オンライン)

ハイクォリティな特撮系CGアニメーションです。


なぜかキメキメのポーズ+黒ずくめのスーツで登場するドラゴン戦士のギャグスレスレのインパクトもさることながら、バックに流れているのがちゃんとオリジナルのテーマソングだったり、敵怪人との戦闘シーンが悉く異常にスタイリッシュだったり、そもそも動画自体のクォリティが半端でなく高かったり、アマチュア臭皆無な作りの”スキの無さ”では今回の「もも展」でもトップクラスだと思います。…と思ったら作者氏は「よんでんメディアワークス」という香川県の映像制作会社の方だそうで、納得。


上記したような要素も勿論素晴らしいのですけれども、この作品の最大の美点を挙げろというならば、迷う事なく「アクションシーンにおける重力のある演出の実現」を挙げたいと思います。これは大昔から特撮系作品全般に付きまとっている基礎的な問題ではあるのですけれども、特にリアル3D系のアニメーションで一番難しいのはいかに(本当は重力のない)デジタルの世界を重力のある「リアル」に近づけるかという事であって、それができないと漫画的・アニメ的な演出に行くしか無くなってしまうわけですが、この「ドラゴンマン」は随所のアクションシーンにおいて、おそらく低予算製作だろう短編作品ながらに立派に「重たいアクション」を実現していて、見ていて感激してしまいました(中盤の「バスが飛んでくる」シーンだけは嘘っぽいな、と感じましたが)。


ドラゴンマン・オンライン」と題したこちらのページによれば、何でも「ドラゴンマン」とは香川県の広告会社が中心となって展開している子供向けのイベント用キャラクターだそうで、未来の主役である子どもたちを取り巻く環境を守るために悪の組織と戦うヒーローという設定だそうです。うーん素晴らしい。ドラゴンマンが日本の子供達を救う!腐敗した政治家とかも退治してくれるに違いない(関係無い)。

KAGUYA −誕生−(VJ URUSHI)

竹取物語に想を得た幻想的なアニメーションです。


まばゆいばかりの光の演出に目を奪われがちな作品ではありますが、実はその背後にある「闇」の演出が徹底しています。可視領域ギリギリまで彩度を下げた背景にあってこそ、その身のうちから人とは思えぬ輝きを放つかぐや姫その他の登場人物が、闇世に浮かびあがった月のようにくっきりとした輪郭を持って浮かび上がり、幽玄な美しさをもって観客を魅了します。


見る側の生体リズムを意図的に狂わせるような音楽と合わせて、何とも言えぬ魔術的な雰囲気を持った作品。物語が冒頭だけで全然完結していないのも、この際「観客を惑わせる為の演出」の一環ということにしましょう(笑)。

総評

念のため書いておきますが、全42作品に及ぶ「Movie」タイプの作品の中には、ここにとりあげた一部の作品以外にも優れた作品は数多くあります。「空と海と夢」(岬の部屋で〜す。)は豪快なスカイアクションとリリカルなストーリーのギャップが魅力的な逸品ですし、「ガイコツ島」(ガイコツ島のHP)はナンセンスなんだかファンタジーなんだか分からない奇妙な世界観が印象に残る怪作でした。他にも、ちょっとブキミなキャラクターとほのぼのとしたストーリーが不思議とマッチした「プルーの冒険 〜出会い〜」(3Dな部屋)、「萌えアニメ」の範疇に入れて良いやら迷う作画力の高い力作「ひとり|ひとり」(++ インクリメンタル)、ハイテンションな童話のメタパロディ的ムービー「Secret of Little Red Riding Hood*2、文学的な叙情性を帯びたファンタジームービー「Bell」*3などなど、バラエティに富んだ作品が多く見られました。


ここまでホメといて何故全作品感想をやらなかったのかと言えば、単に数が多くて大変だからという筆者側の勝手な事情もありますけれども、上記したような「普通に作品として成立したムービー」のほかに、CGの技術実験的な作品が多く含まれていたため、専門知識のない筆者には敷居が高すぎると感じられたためでした。
今回の「もも展」の出品作には数秒で終わるサンプルムービーや、元の動画(現在製作中の作品など)を再構成した予告編ムービーなども多く、それは恐らく(CGの素人から見た)作品としての出来がどうこうというよりも、純粋に自分の技術をアピールし、それに対する批評を「Studio MOMO」というコミュニティ内部より受け取ることを目的としているのでしょうから、それに外部から偉そうに口出しをするのはいかにも的外れなアプローチと言わざるを得ず、たとえ全作品感想を書いたところでつまらないものになるのは目に見えていると考えたのです。


「もも展」はあくまでもそうしたコミュニティ内での批評・論評を活性化することをその目的としているのかも知れませんし、それはそれで全然悪いことでは無いと思うのですが、純粋に技術的な精度を競った作品の中に、「アニメ作品としての」面白さを追求する(どちらかと言えば外部向けだろう)作品が混じっているのは、ネット上で行う作品展としては少々アンバランスだと言えるかも知れません。
マチュア制作のCGアニメはその殆どがオフラインのコンペティションをベースに駆動していて、なかなかそのレベルをウェブに知らしめる機会がないので(そんなもの必要ないと言われるかも知れませんが…)、「もも展」とは別に完全に外部ユーザー向けのコンペティションを(Studio MOMOとして)設けてみると、Flashなどのウェブアニメの文脈とも繋がる部分が出てきて面白いかも…と思うのですけども、実現可能性は低いのかなあ。


ともあれ、そのようになかなか知る機会のない、優れたCG系アニメーション(及びその作者氏)に数多く出会うことができたので、個人的には非常に楽しい展覧会でした。これからも本イベントと「Studio MOMO」の一層の発展を願っております。

*1:「プロモーションビデオ」から飛べます

*2:サイトなし

*3:サイトなし