「アイ,ロボット」(ネタバレ注意!) 

製作 ローレンス・マーク(「ザ・グリード」)/ジョン・デイヴィス(「プレデター」)/トファー・ダウ/ウィック・ゴッドフレイ(「エネミー・ライン」)
監督 アレックス・プロヤス(「ダークシティ」「クロウ/飛翔伝説」)
脚本 ジェフ・ヴィンター(「ファイナルファンタジー」)/アキヴァ・ゴールズマン(「ビューティフル・マインド」)
原案 アイザック・アシモフ(「われはロボット」)
撮影 サイモン・ダガン
美術 パトリック・タトポロス(「ダークシティ」)(「インディペンデンス・デイ」)
音楽 マルコ・ベルトラミ(「スクリーム」)(「バイオハザード」)
特撮 ジョン・ネルソン
出演 ウィル・スミス(「インディペンデンス・デイ」)「メン・イン・ブラック」)/ブリジット・モイナハン(「コヨーテ・アグリー」)(トータル・フィアーズ」)/アラン・テュディック(「ROCK YOU!」)(「アトランティスのこころ」)/ブルース・グリーンウッド(「スウィート・ヒアアフター」)(「ザ・コア」)



DVDで鑑賞。

自分の身の回りでは「ウィル・スミスがアシモフの墓に小便をブッ掛ける映画」という最悪の評判が立ち登っていたので正直あまり期待していなかったのだが、普通のB級SFアクションとして過不足なく楽しむ事が出来た。
要はスピルバーグがP・K・ディックの原作を映画化した「マイノリティ・リポート」と同ジャンルの映画で、傑作と名高い原作に対する真っ向勝負を避け、あくまでも原本をベースとしたハリウッド流のブロックバスター・アクションを展開することで、数少ない原作ファンを無視する代わりに一般層へのアピールを獲得するという小賢しい計算に基づいて作られた映画なのだが、あらかじめ志を低くした事がかえって幸いしたのか、劇中のコンパクトな世界観は「マイノリティ・リポート」より遥かに上手く纏め上げられている。

あまりそっち方面に対する知識がないと思われる脚本家二人によって創作された話は要するにブレードランナー」ミーツ「ターミネーターで、自我を獲得した高性能ロボット・VIKIが「ターミネーター」のスカイネット理論を三原則に援用し人類滅亡を企てるというもの。たった一人だけの「天才科学者の遺志を継ぐロボット」(=サニー)が解決のキーになる点といい、この手の映画ではお約束の1001匹ロボット大暴走のシークエンスといい、ミステリとしての仕立てもSFとしてのアイディアも既存作品の寄せ集めで陳腐な印象だが、流石はAKIRA」×「未来世紀ブラジル(÷3)なトンデモSFの佳作「ダークシティ」でデビューした新進気鋭のオタク監督アレックス・プロヤスだけあって、ロボット軍団が米搗きバッタのように襲いかかるあまりにも馬鹿馬鹿しいヴィジュアルも相俟り、欠点を「愛嬌」と読んで看過できる程度には気にならないものにしている。
冒頭の全く意味のないナルちゃん丸出しのシャワーシーン(女性向のサービス?)や鍛えぬかれた肉体の割りに鈍重なアクション等、着実に黒いトム・クルーズへの道を邁進するウィル・スミスも(「マイノリティ・リポート」の「本物」よろしく)好演だし、原作のスーザン・キャルヴィンの神経質で人間嫌いな性格を見事に表現したブリジット・モイナハンの演技も素晴らしい(まー本当に原作どおりにするならこの役は山田花子系のブスでないと勤まらんのだけど、これは仕方ないか)。この映画以前にこれと言ったキャリアの見当たらない撮影のサイモン・ダガンによる360度ブン回しカメラも見ていて楽しく、見ている間中はまずまず退屈しない作品になっている。

ただ、「ロボットは自我を持つのか」「ロボットの中には進化する幽霊がいる」*1等(原作から継承した)哲学的なテーマをこれでもかと散りばめながら、それぞれの問いに全く解決を与えない製作者の姿勢に違和感を覚えた事も事実。どうせアシモフに敬意を払う気など無いなら、原作ファンからいくら嫌われても徹底してB級に徹するべきだったと思う。陳腐な事柄をさも高尚に見せようとする手口は知識人気取りのインテリがよく使う手でもあり、作り手の観客に対する無意識の軽蔑を感じ、はっきり言って感心できなかった。
「人間の苦悩」「ロボットの苦悩」に真っ向から向き合ったアシモフの小説とは違う、いかにもハリウッド映画的なゲーム感覚が漂う中で、唯一 副主人公のロボット・サニーの苦悩、進むべき道も無い砂漠の果てに一人屹立させられたラストシーンだけに「本格SFとしてのリアル」を感じた。出来る事なら、あのシーンの続きをもう少し見て見たかった気もする(続編はいらないけど)。



*1:これは押井守作品からの引用ではないかと言われていたが、映画評論家町山智浩氏のインタビューによるとどうやら違うらしい