「Perfect Promotion '05」感想・その2(「Futurology」「トオイコエ」「デノテーション/denotation」「chaser」「夏詰」)(ネタバレ注意!)

5月27日から2ちゃんねるFLASH・動画板にて開催された同イベントの感想です。
このエントリーは前回のエントリーの続編になります。

移ろい行く生命の儚さを感じる作品です。無機質にうねる線形がやがて円環となって生物の構成要素であるDNAに変化し、しかし伸びたその芽はたちまち弾丸の一発によって潰えてしまう・・・・連結によって木のような形を作り上げた黒い矢印が、自身がまがいものであることを自覚したかのように崩れ落ちるラストシーンには何とも言えぬ寂寥感が漂っています。


勿論、「あまり深く考えずに見てください」とのコメントにもあるように、作者氏の主眼はあくまでも環境映像としてのMGの魅力を引き出すことにあり、原色と混色を巧みに対比させた画面構成や、緩やかなカーブを描いて流れて行くシンボルの動きの醸し出す快楽こそが前面に押し出され、テーマ的なものは舞台裏に隠れてしまっているのですが、観客の目の届かない裏側にあればこそ想像力を働かせる面白みもあるというものでしょう。さらりと見流すにもとことんのめり込むにも適したスマートな一品です。


ちなみに、タイトルの「Futurology」は「未来の科学」を意味するのだとか。とするとあの「DNA」もやはり人工的に作られたものなのでしょうか?

灰色の少女の顔に滲む死の予感。「潜在意識」「記憶」というキーワードを象徴するかのような幻想的なシーンは何れも鮮やかに生き生きとした色合いで描かれるのに対して、ノイズと単色で構築された「現実」の風景のなんと白々しく見えること。「遠い声」ではなく「トオイコエ」としたタイトルのネーミングセンスからしてどこか素直には受け止められないシニカルな作品性を感じさせます。


「人生はやり直せない」との言葉の元にリプレイ機能すらつけられていないエンディングには、どこか人を突き放したかのような冷たさが漂っています。新人らしい作者氏の初々しいコメントとは裏腹に、製作協力をしたという肛門の臭い氏の初期作品を思わせるような狂気の臭いに彩られた秀作です。

なんと同趣向の姉妹作品を同時に提出するという野心的な試みが為された作品です。


英文文字をシンボルとした「デノテーション」は複雑で情報量に富んだ作品で、後半に入り文字量が増すとスピードの向上と同時にどんどん観客の頭も混乱に陥ってきますが、「denotation」は単純なスクウェアシンボルを文字の代わりに据えている分、イメージがクリアで落ち着いたものになっています。


どちらを良いと思うかは観客のお好み次第としても、一定の演出に従ってシンボルを動かせばどれも似たようなものだと思われがちなMGというジャンルに対して、本作は逆にシンボルや演出のほんのちょっとした違いがここまで巨大な印象の差異を生み出す結果に繋がったという証明になることでしょう。
空間を自在に動き回る3D映像のような浮遊感も心地良く、同ネタの連続でも観客を退屈させないテクニカルな一品です。

本イベント唯一の飛び入り作品です。


真白くハレーションしたモノクロの郊外の風景、日本の映画監督ならさしずめ黒沢清あたりが撮りそうな殺伐とした空気が、やがてサスペンスフルなファンタジー世界にスムーズに移行していきます。全編手ブレのカメラで撮影された芝居の妙味は、Flashアニメが主体でありながらアングラ系の自主映画の香りも匂わせてキッチュな感覚です。


全く救いのないエンディングはおそらく話に収拾がつけられなかったが故の処置でもあるのでしょうが、実写映像の持つ現実感と相俟って観客を悪夢の世界に閉じ込めておくには最適の手法とも思えました。

ファンタスティポ!!(大声で)


えー興奮のあまり意味不明な言葉を叫んでしまいましたが、本イベントのトリを務めるに相応しいファンタスティックでポップなイメージムービーの傑作が本作です。ギターのカッティングのような軽快なリズムと共に空気で韻を踏むようなステップで次々と登場する夏の風物詩達は、個々のシンボルだけでPV作品が一本作れそうなほどのキュートな魅力とイマジネーションを喚起する叙情性に満ち溢れています。


一見非常に「詰め」込まれて窮屈ながらもその実思わず踊り出したくなるような陽気とパワーが充溢した日本の暑い夏の風景は、まさにこのFlashで表現されたそれと同質のものを持っているように僕には感じられました。爽やかに輝き飛びまわるようなイメージの奔流は、遥か極東の熱帯気候の島国に住んでいる者にしか感じられない60秒間の飛びっきりの贅沢です。

  • 総括

事前に選考を重ねただけあって、全体的に非常にハイレベルな作品が揃ったイベントだったように思います。個人的には「PV系のFlashであること」というイベントの提出作品の大前提に異議申立てをしたラ・フランス氏の「二兎追うものは it isn't」や*1、巧みなテクニックで精神系暗黒世界を描いた赤卵氏の「大嫌い」等が印象に残りましたが、総合的なクォリティではなんと言っても最後のトリを務めた400km/h、Ohimasaka両氏の「夏詰」が素晴らしかったように思いました。コンパクトに仕上げられた短時間の作品でもこれだけ見るものの心に深い感懐を与えてくれるジャンルは、Flashを用いた多岐に渡る映像表現の形式でもPV/MG系ジャンルぐらいしかないのではないかと思いますし、また「夏詰」の作り自体がMG系の良いところだけを切り取ったような正攻法のものだったことも、本イベントのラストを飾るにふさわしいマーベラスな逸品であったことの証左であるように思います。
来年も本イベントがこのクォリティを保ちつつ、PV/MG系ジャンルの発展に寄与する存在であることを願っています。力作を提出されたFlash作者の皆様、素晴らしい作品をありがとうございました。

*1:見た当初は困惑気味の感想を書いてしまいましたが(笑)、こうした作品が「Perfect Promotion'05」に提出されたと言う事実は冗談抜きに重要だと思います