「flash★bomb'05 THE THIRD IMPACT」オンライン発表作品感想・その1(「1歳6ヶ月の注意事項」「EMDCR」「ムサベツカウンターストップ」「aspEct」「VB」)(ネタバレ注意!)

去る9月23日開催されたイベント「flash★bomb'05 THE THIRD IMPACT」に出品された作品のうち、オンラインで発表済みのものに限定した感想です。
発表されている作品のリストは、(・∀・)イイ・アクセス: 2005年09月23日 アーカイブMUZO フラッシュエンターテイメント | FLASH50 の閃客万来! | flash★bomb'05 終演を参照してください。
今回は、イベントのプログラム【第1部】で発表された作品の感想を掲載します。

1歳6ヶ月の注意事項

商業化もされたFlashアニメーションシリーズとして有名な「3歳シリーズ」のG-STYLE氏によるイベントのオープニング用の作品です。


3歳シリーズの主人公君の弟である1歳6ヶ月君による注意事項の説明が、意味不明を超えた破壊的なギャグとして成立しているのは、単なる作品のナンセンシズムによる理由だけではなく、「flash★bomb」というイベントに参加するような「Flashファン」であれば当然「3歳シリーズ」を見知っているだろう、という受け手側の前提があるからであり、(誰もが知っている)「3歳シリーズ」とほぼ同一の手法での演出を、技術的にトップレベルのFlashアニメーションが集うイベントでやってしまうという傍若無人さが、作品の妙味を内容以上に引き立てているからだと見て相違ないと思います。


逆に言えばこれは「3歳シリーズ」という(Flashファンの間では)超有名な作品が受け手側に「知られている」という前提があるからこそ成立した手法であって、そうした情報共有によるある意味内輪的な空間を超えた場所においては通用しない類のそれなのでしょう。
今後のflash★bombは「スラッシュアップ」と名前を変えて再出発されるとの事ですが、2ちゃんねるFlash・動画板発のイベントとしては最後となったこの第三回で、イベントの開始直前に急遽提出されたという本作を堂々とオープニングに掲げた意図を、主催者であるMUZO側の視点から考えてみるのも一興かも知れません。

EMDCR(movファイル直接リンク/32MB)

Elite Motion Designs」の153回帰氏による、Adobe After Effectsを使用したMotion Graphics(MG)作品です(容量が大きいので、観覧の際にはダウンロードツールの使用を推奨します)。


海外の映像プロダクションの作成するShow Reelに直接的な影響を受けたのだろうウェスタンなビジュアルワークのインパクトもさることながら、ブラックミュージックのリズムを取り入れたBGMに沿って展開される不可思議なアニメーションは、Flash製MG作品にありがちな生硬さとは対極にある、独特のしなやかさを持った浮遊感すら獲得しており、受け手に映像の世界へ入り込むことによる快感を存分に味わわせてくれます。外国文化の風味をふんだんに盛り込みつつ、安易な西洋かぶれ作品とは一線を画した色使いやモチーフから滲み出る土着的なエキゾチズムの表現は、「本場」の西洋人には作れない類のそれだとさえ言えてしまうかも知れません。


ただ、本作をして「西洋に輸出しても通用する作品である」という評価をしている方もいるようなのですが、素人の私見にすぎない事を前提に書かせていただければ、果たして作品中に「西洋的なるもの」―アメリカの黒人やマイケル・ジャクソン、あるいは枠の中に閉じ込められたキリスト―のイコンを記号的に挿入している本作のようなタイプの映像作品が西洋人に抵抗なく受け入れられるのか、という疑問もあります。むしろ、(日本も含む)アジアや非西洋の国々でこそこうしたタイプの作品は受け入れられやすいのでは、そしてそれはクォリティの問題ではなく、単なる文化の違いによる感覚的な差違によるものなのではないか、と僕には思えました。


※本作の感想ではありませんが、本作を見て「もっとこういう作品が見たい!」と思われた方は、maxさんのブログ「3D映像空間主義」や、GilCrowsさんのブログの「カテゴリー:motion graphics」、gumiさんのブログ「gradation」等をご覧ください。

ムサベツカウンターストップ

ダメージ量のカウンターストップ(9999)を題材にしたアクションバトルゲーム風アニメーションです。


こうしたアクションゲーム風、あるいは格闘ゲーム風のFlashアニメーションの歴史は古く、2001年に発表された後に本当に同人ゲームになってしまった格ゲー風ムービー「GLOVE ON FIGHT」(春風亭工房)、中国(?)の棒人間アクションシリーズ「小小系列」、2ちゃんねるFlash作者のU=GI氏による「戦記シリーズ」などなど、様々な作者による多種多様なアプローチの作品がウェブ上のアマチュアゲーム文化と半ば融合する形で発信されてきたのですが、本作「ムサベツカウンターストップ」も、作者である「マタタビアソビ」のエジエレキ氏が過去にAAキャラクター使用の格闘ゲームFlashアームズパーティー」や「AA OUT BREAK」といった諸作品を発表してきた事を鑑みても、そういった作品の流れを汲むものと見て良いでしょう。


しかし本作におけるポップなキャラクターデザインや三次元的な演出を駆使したアクションの表現は、過去作「アームズパーティー」や2Dあるいは3Dのゲームのそれよりも純粋にアニメーションに近く、またバトルゲーム風のFlashアニメにありがちな(「AA OUT BREAK」においては採用されていた)パワーメーターによるヒットポイントやダメージ量の表現が、「9999」というカウンターストップ値に統一化されることで排除されているところから見ても、ゲームのデモムービーのような作品として見るよりは、単純にゲームのテイストを(装飾的に)用いただけのアニメ作品として見た方が適切かもしれません。
BGMとして展開に起伏のない(ゲーム風の)テクノを選んでいるためか、作品全部が山場のような感じでこれといったストーリーもないのですが、平明で丁寧な描画によるアクションの美しさや、一見ゴチャゴチャしながらもキャラクターのアクションがすっきりと認知できるカメラワークによって、ただ眺めているだけでも十分楽しめるタイプの作品になっており、展開の起伏の無さはそれほど欠点になっているとは思えませんでした。コミカルでキャッチーなモンスターデザインによって、バトルシーンの残酷性が最低限に抑えられているのも少年向け作品としては高ポイントでしょう。


なお、2ちゃんねるアスキーアートキャラクターによるゲーム風のFlashムービーについては、「猫眠」のマタタビさんがタイミングよくまとめてくださっているので、ご興味のある方はそちらも参考に。

aspEct

Carpe diem」の伊織氏を中心としたチームによる現代美術的なアートワーク作品です。


冒頭、篝火が灯されているかのようなちりちりとした効果音とぼやけた色彩、やがてそれが具体的な形を得る段に至って、唐突に本編が開始されます。ばらばらに千切られたモノクロの写真が寄り集まって女性の顔の全体像が見えてきたかと思うと、間も無くその上から冒頭の色彩に似た多種多様な色の描線が塗り重ねられていき、モノクロ写真を映像的なオブジェと化していきます。


元々被写体である女性(男性のパターンも幾つかあったようですが)を写しとる事で作りだされた「モノクロ写真」は、それをアートワークと化するという意図を持つ作者にばらばらに千切られることによって、既に「被写体を写し取ったもの」という本来の意味すら超えた意味を付加されていますが、それでも(それが人間の顔なり姿なりを(それぞれを組み合わせることによって)形成している以上は)そこに映し出されているのは「(生きた)人間」の姿です。ところが、その上に色彩による装飾が重ねられることによって、千切られたモノクロ写真はその本来の意味を完全に逸脱した、アートワークの為のオブジェと成りはててしまいます。これは元のモノクロ写真が持っていた「被写体を写し取ったもの」という記号的意味に、「(作者の意図によって)上から塗りたくられる色彩」という記号的意味を重ね合わせることによって、どちらの記号的意味とも異なる記号的意味をそれそのものに与えているという事であり、その行為にはある「記号」がある「記号」を駆逐し塗り変える時に特有の、美麗で装飾的な外見の裏に隠された計り知れない暴力性が感じられます。


それでも、その暴力行為が行われるさまを、受け手である観客が(その暴力性に)無自覚なまま「綺麗だねえ」とでもつぶやきつつ脳天記に眺めていられれば、まだ幸福だったのかも知れませんが、作者はそういった(受け手の快楽原則に従った)「作品への没入」さえ許さず、途中で何度か意図的に作品の「動作」を停止させる(単に画面が動いていないというだけではなく、音楽も含む全ての作品中活動を停止させるという意味)ことによって、否応なしに「それと向き合っている我々」の姿を(受け手である我々自身に)自覚させることになり、作品の暴力性をよりビビッドなものに仕立て上げています。停止させる「女性の顔」とすら既に呼べないモチーフの「目」(と傍目から認知されるだろう部分)が、じっと睨むようにこちらを見つめているのは、いずれの場合も偶然ではないのでしょう。


作品のアバンギャルドさと比して、妙に大人しくベタな終わり方(これといった盛り上がりもなくクレジットが表示されるだけ)が最後に用意されているのは、せめてこの恐ろしい作中世界から鑑賞後の我々を解放してあげよう、という作者氏の優しさの現れなのかもしれません。

VB

ウイルス駆除をテーマとしたB級SFアクション風アニメーションです。


マチュア制作によるFlashアニメーションでは、「こしあん堂」のたけはらみのる氏の諸作品などに典型的なように、キャラクターの等身を低くすることによって手足などの関節部分をそれぞれ別々に動作させる「多関節アニメーション」(Flashアニメーションの基本的な技法)を見た目に自然なものに仕上げやすくするということが、アスキーアートキャラクターの作中使用などと並行して日常的に行われているのですが、本作「VB」はそうした多関節の技法(コマアニメではない)を採用しつつ8等身のキャラクターの描写にチャレンジした野心的な一作です。導入のシーンから中盤のアクション、「スパイダーマン」のグリーンゴブリンの駆るグライダーのような乗り物に乗ってのライド、巨大ウイルスとの最終決戦に至るまで、丁寧なデッサン力に支えられた自然な描写は、多関節アニメとしては勿論、通常のアニメーション作品として見ても出色の出来で、画面の力だけで物語をぐいぐい引っ張っていきます。


一行目で本作の世界観を「B級SFアクション風」と書きましたが、本作の演出技法は「マトリックス」や「リベリオン」のような、アクションの切れ味やハッタリを重視した昨今流行の近未来SFアクション映画よりもむしろ、ビジュアル的な美しさ&見栄えの良さを重視した「チャーリーズ・エンジェル」的なもので、それはアクションムービーにも関わらず敵が同一デザイン(しかも物凄く地味)の「ウイルス」しか存在しないことや、弾丸を発射して敵を攻撃する際、銃を撃つモーションを描写するよりも主人公のをアップで写し取るシーンが多いことからも伺えます。要はアイドル映画の技法で描かれたアクション・ムービーであるわけで、そうしたものが苦手な人、あるいは本格的なアクションの描写にこだわりを持っている人には、本作を否定的に捉える向きもあるかと思いますが、それはどちらの技法が優れているという問題ではなく、単なる作品性の違いに還元される類の差違に過ぎないのではないかとも感じます。


…ただ、個人的には最後のあのオチは作品世界を悪戯に矮小化してしまっただけで、あまり効果的なやり方ではないのではないかとも思いました。かつての「Nightmare City」のような、(見た後では)作品の意味そのものが全く違って見える類の「エピローグ」であれば歓迎したと思うのですけど。