「のまネコ」騒動はネット右翼運動の変形?

騒動の開始から約1週間が経って、2ちゃんねる内ではまとめサイトが潰されたとか何とかで未だに紛糾している(らしい)当問題ですが、前回のエントリーで端緒を見せたエセ社会学的思考(nekonekoさんへのお返事の部分です)を進めてみた結果、なんだか自分なりに本問題の本質というか「そもそもなにが問題とされているのか」が何となく見えてきてしまい、急激に本問題への関心が低下してしまいました。


まあ、以下記述する内容が果たして本当に正鵠を得ているのかは解りませんし、単なる自分の妄想かもしれないのですけども、問題に対する関心が薄れているのは事実なので、本問題について書くのは多分これが最後になると思います。
なお、本エントリーでは(今までは割と擁護的に扱ってきた)所謂「2ちゃんねらー」の方々に対して、かなり批判的な事を書いているので、読まれる方はその点を予めご了承ください。
どうせ乱暴な内容なので、文体もいつもの敬語ではなく常態にしています。


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最初に書いたエントリーで「avexひろゆきに金払えよ」という2ちゃんねる寄りの結論を出したのは、本題である「のまネコ騒動をどう解決すべきか」が最初のテーマとしてあったのは確かだけども、実は隠れたサブテーマとして「のまネコ騒動で問題視されている部分を明確化する」という目的があったからだった。自分が出した「あやしいわーるどから盗んだモナー著作権を主張するなんてバカな真似はやめて、倫理的見地から冷静にavexを批判しろよ」てな提言は、もしそれが2ちゃんねるの方々の間に多少でも広まれば、当初巻き起こっていたavexサイドへの度を越した誹謗中傷や、反2ちゃんねる派のブログへの荒らし行為なんかも沈静化出来るかもしれないと言う見込みが(ほんの少しだけども)あった。こんな弱小ブログからそんなムーブメントなんて起きるかよバーカと言われれば確かにその通りなんだが、2ちゃんねるにURLが晒されればそれだけで相当な人が来る筈だし、実際当該エントリーはid:fake-jizoさんのブログやGilCrowsさんのブログ、「ぁゃιぃ(*゜ー゜)NEWS」さんのヘッドラインなどで取り上げて頂いたお陰で、2000人ほどの人が外部からの来訪者としてエントリーを読みにきてくれた。


が、id:fake-jizoさんやid:nekonekoさんのようなあやしいわーるどの方には(エントリーの内容について)言及されても、2ちゃんねる住人を名乗る人には(エントリーにコメントしてくれてた森の人さんは知らないけども)明確な賛意や非賛意を示す反応が一つも無かった。もちろん、2ちゃんねるのスレッドからのリファラも見当たらなかった*1
あんなクソ長いエントリー誰も最後まで読んでくれなかったんだろう、とも思ったが、最後の方に結論だけを数行で纏めた「暫定的結論」のパラグラフもあるし、ちゃんと全部読まなくても大体の内容は理解してもらえるように書いたつもりだったので、何故僕の意見に対するレスポンスがないのか、また(僕のエントリーを知ってか知らずかに拠らず)僕と似たような意見を2ちゃんねるの人々が唱えないのか、釈然としなかった。
モナーやギコは2ちゃんねるが独自に生み出したものではなく、2ちゃんねる住人があやしいわーるどから奪って「オレのもの」に仕立て上げてしまったということは、まあある程度は歴史的知識として認知されているのだろうと思ったし、仮に一部の*2バカなチャンコロが「著作権的にアレだから云々」とモナーの商用利用を非難しても、id:mrnknさんのこのエントリーに一撃で論破されるような論理しか組み立てられないのは明白だし、金が欲しいのでも著作権利を主張したいのでもない、じゃあ「のまネコグッズの販売を許さない」などと言っている2ちゃんねる住人がavexを非難する根拠は何処に?………この点が全く分からないので暫く逡巡していたのだが、id:nomanekoという2ちゃんねる住人の人のこのエントリーを読んで、なんとなくナゾが解けた(ような気がした)。

まあ、そんなこんなで確立されてしまったプライドを、ナタの切れ味で傷つけられたら黙ってはいられないわな。

「てめえ、エイベックス、あとフラッシュの作者、ふざけんじゃねえ」

ってことになるわけですよ。この時点では法律論なんか関係なし。単なる感情論。モナーという、愛してやまないキャラクターで、普段遊んでいる2ちゃんねるのシンボル的なものを、勝手にインスパイヤされて塗り替えられたものを。このあたりは「国旗を焼かれたところで誰にも損はない」というのに似ているかと思う。どこかの国の国旗を公衆の面前で焼くのは全世界共通の挑発行為でしょ。

んで、エイベックスがそれが国旗を焼くかのような挑発行為であることを知ってか知らないでか、やってしまったわけだ。怒る人が出る。当然、拠点となるのは毎度のことのニュース速報系の板。いや、俺みたいにはてなダイアリーを拠点に活動してもいいと思うんだけれどね。まあ、ニュース速報系の板に集まるのは「おやくそく」みたいなもんだし。このへんは「UNIX板が2ちゃんを救った」のと同じように、普段は別の板で書き込みやROMをしている人が集まって何かをする、という感じ。モナーなんかどうでもいい人も、祭りが好きなだけの人も、みんな集まってああでもない、こうでもないと議論を続けながら、これもまたおやくそく「縦読み」「工作員」「釣り」だなんだと夜が明けて日が暮れるまで、延々と。

ネット右翼運動じゃん、これ。


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わざわざ国旗を喩えに持ってきてくれているので解りやすいと思うのだけど、上の引用部の「モナー」や「2ちゃんねる」を「国旗」*3や「日本」に置き換え、敵として糾弾されている「エイベックス」や「フラッシュの作者」を「韓国」や「中国」に置き換えれば、まさに2ちゃんねるニュース速報系の板やブログを中心として行われているネット右翼運動の姿そのまんまになる。根拠なく感情論で相手を糾弾するところも一緒。縦読み」「工作員」「釣り」だなんだと夜が明けて日が暮れるまで、延々とコミュニティ内部で仲間と議論*4を続けるところも一緒。自分に反対する意見(今回の場合だったら親avex的な意見や、あやしいわーるどの方々が表明されている反2ちゃんねる的な意見が相当するだろう)を持っている人が運営するサイト(ブログ)に、大勢の"2ちゃんねる住人"が意見を寄せる事例が見られる事、その数の多さとネット固有の端的な文章から、時に暴力的に見えることがある所まで一緒だ。このことに思い当たった瞬間、僕は一気に全身の力が抜けていくのを感じた。何だよ、著作権やモラルに関するインターネットのコンフリクトに関わるような、もっと重大な問題なのかと思って考えてたのに、単に奇形化しただけのネット右翼運動かよ。この問題、開始当初からその動きに僕はどこかで既視感を感じていたのだけど、それは前のタカラギコ騒動ではなくネット右翼運動に対するデジャヴだったのだ。なーんだ。


今回2ちゃんねるの住人が(元ネタとなったFlashミュージックステーションで流れたり、Flashが収録されたシングル「恋のマイアヒ」が総売上30万枚のミリオンセラーヒットとなった時は何も言わなかったにも関わらず)そのFlashに登場した「モナー」が「のまネコ」としてグッズ販売され始めた途端に烈火のごとく怒り出したと言う(外部から見れば全く不可解な)現象も、ネット右翼が韓国の日本文化パクリネタを執拗に批判するのに准えれば、今回の(2ちゃんねるというコミュニティ内部にいる)2ちゃんねる住人の心情は割と理解しやすい。前回のエントリーでも軽く触れたけれども、(外部から不可侵な存在としての)(幻想の)共同体=2ちゃんねるにドップリ浸かった2ちゃんねる住人は、その共同体の内部に外部の人間が軽軽しく足を踏み入れる事は絶対に許せないのであり、それはネット右翼が自らが所属する(幻想の?)共同体=日本という国家に対する外部からのそうした「介入」を絶対に許さない心情と同義なのだ。2ちゃんねるというコミュニティの一部として内部化されたアスキーアートである「モナー」が外部に輸出されたり影響を与えるのは許せるが、逆にコミュニティの一部として内部化されていない(外部のものである)「のまネコ」が「モナーの類似品」としてコミュニティに(半ばムリヤリ)内部化されるのは許せないという感情、これはコミュニティという「幻想」を保持しようとする人間の心情としては極めてありふれたものであると思う。コミュニティの内部に自分の居場所を求めるタイプの人というのは、そのコミュニティが(どんな形であれ)外力によって変質するのには(変質する前のコミュニティの状態への愛着も相俟って)激しい拒絶反応を起こすはずだから。


今回のケースが特殊なのは、ネット右翼における「オレ達を支える(幻想の?)共同体」である「国家」が、ネット上の巨大コミュニティ=(幻想の)共同体である「2ちゃんねる」に置き換わった事で、偏狭なナショナリズムレイシズムが持つインモラルな側面に当事者達が後ろ髪を引かれる事なく、堂々と「我々の仲間を消した極悪企業avexは悪だ!」と主張できるようになったことであって、さらにそれによって「(単なる外力による強制あるいは当人の勘違いで)困っている人がいたらとりあえず助けたくなる善意の第三者」すら味方につけることができるようになり、2ちゃんねるというコミュニティの外部まで巻き込んで騒動を拡大することが出来たのだと僕は考える。
基本的には個々人の正義感に立脚するのだろうこのような運動は、「ネット上のコミュニティの住人による善意の連帯」と言えば聞こえは良いが、ネット右翼運動の場合には辛うじて機能していただろう(それがナショナリズムレイシズムに回帰する可能性があることによる)当事者の心情的ブレーキが一切働かなくなる可能性が生まれることにもなり、id:urouro360さんが言われるような「互いを認識するコミュニティなんてないのに、建前を中心にして「私たちの2ch」とか言ってるところをみると、君ら別に実態としては交流ないのになんでそんな簡単に連帯できちゃうの?という不可解さ」を生む原因を作ることにもなっているのだろうと思う。


「善意」によって意見の一致を見、複数人と連帯することになった集団が、(ネット右翼に通じるような)強力な結束力を持って団結し、自分の行為が果たして「正しい」のかということに(善意的な集団であるがゆえに)全く疑問を抱かぬまま邁進するのは、もしかすると極めて危険なことかもしれない。現実問題、今回の騒動では(実際の書き込みは確認できなかったが)「マイヤヒーFlashの作者であるわた氏の職場の住所が何者かによって暴かれると言う事件も起きているのだが、そういうことをする仲間がいることをして自身の行為を咎められた「善意の集団」の構成員が、「(そういうことをしているのは)一部の人間だけですから」と容易に仲間を(「善で無い」と言う理由で)集団の構成員から切り離すことが出来るとすれば、彼らを一個の「集団」として批判する事は誰にも出来ないことになる。内部あるいは外部からの批判を受け付けなくなった集団が、やがて全体主義的な様相を帯びてくれば、それがかつてのカルト宗教のように振るまう事だって、もしかしたらありえるかも知れない。


………なんか最初は運動の実態の陳腐さにガッカリしてたのに、考えていくうちにこれ結構ヤバいんじゃねえかという気になって来たぞ。avex社は開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのか!?おお(幻想の)ネットコミュニティよどこへ行く!つーかfake-jizoさんも書いてるけど特定のコミュニティに過剰な帰属意識を持つのはそれがなんであれやめた方がいいと思うよ。現実が辛くてどこかに逃げ場所が欲しいなら、ネット上での「キミの力が必要だ!」幻想なんかさっさと捨ててこのCDでも聞くのがいいと思う。悲しみで花が咲くものか!


注意:もちろん、「ネット右翼」にしろ「2ちゃんねらー」にしろ、言葉としての定義が曖昧な俗語に過ぎない以上、今回書いたこととて全ての「ネット右翼」や「2ちゃんねらー」に当てはまるものでは無い事は承知しています。今回の「ネット右翼」ははてなダイアリーキーワードの解説に従ったステレオタイプなイメージの人々、今回の「2ちゃんねらー」は本騒動に積極的に関与している人々をそれぞれ指して書いていますが、活動の程度などが原因で例外も存在していると思います。


追記コメントやトラックバックへのお返事と当エントリーの補足のための記事をアップしました。よろしければこちらも参考に。

*1:ime.nuも含め

*2:この言い方好きだよね2ちゃんねるの人達

*3:でも何でもいいがとにかく「日本の文化」として認知されているもの

*4:の皮をかぶった「敵」への罵倒の場合もあるだろう