「太陽を盗んだ男」(ネタバレ注意!)

製作 山本又一朗(「バンパイアハンターD」「あずみ」)
監督 長谷川和彦(「青春の殺人者」)
脚本 レナード・シュレイダー(「ションベン・ライダー」「蜘蛛女のキス」)/長谷川和彦
原案 レナード・シュレイダー
撮影 鈴木達夫(「田園に死す」「梟の城」)
美術 横尾嘉良(「セーラー服と機関銃」「復活の日」)
音楽 井上堯之(「遠雷」「傷だらけの天使」)/星勝(「おもひでぽろぽろ」「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」)
出演 沢田研二(「ピストルオペラ」「魔界転生」)/菅原文太(「仁義なき戦い」「ビルマの竪琴」)/池上季実子(「HOUSE ハウス」「冬の華」)


まだ見ていなかった日本映画の名作を観るシリーズ(?)第二弾。
言わずと知れた70年代の伝説的傑作ですが、僕はこれが初見。


僕が日本映画が好きな理由の最たるものの一つに、作中世界全体に漂う「自主映画っぽさ」というか「シロートっぽさ」がある。ハリウッドのプロフェッショナルが作る「スクリーンの枠にすっぽり収まる架空の世界」ではない、素人にしか作れない「現実から地続きの世界」がそこにはあるからだ。
普通、プロが配信する劇場用映画で「素人臭い」事は致命的な欠陥になってしまうのだが、こと一部の日本映画ではそれが短所にならない、むしろ長所と化して作品の魅力になってしまう場合がままある。


それは映画を撮る場所、ひいてはこの日本と言う国家自体の「特殊性」にあるんだろう。
先進国にもかかわらず未だに旧制の王=「天皇」を頂点に頂く国家。
自分探しの為に機関銃をもってバスジャックするキチガイ
歩いていける場所にあるプルトニウム
平凡な理化教師でも太陽=原子爆弾を作れる、しかも良心の呵責なく(=宗教の不在)。
力を手に入れたところで行使すべき対象は無い。
恐ろしい悪人でも視聴率の為には平気でネタにするマスコミ。
・・・・・・・・その善悪は別として、斯様な現象は絶対日本以外の国では起こり得ないものだ(あ、王制はイギリスにもあるか)。


逆の言い方をすると、その現象が「日本以外の国では起こり得ない」事を知らないと、この映画の危険さを身をもって体験することは出来ない、とも言える。
修学旅行の学生を人質にとって「天皇に謁見させろ!」と叫ぶことの「危険」さ。
原子力発電所に堂々と忍びこみ、プルトニウムを力づくで強奪することの「危険」さ。
小汚い4畳半のアパートで、東京一帯を滅ぼしかねない兵器を製造することの「危険」さ。
原爆を携帯電話のように渋谷の真ん中で持ち歩くことの「危険」さ。
視聴率目当てのマスコミを吊って、「俺達に明日は無い」ばりのカーチェイスを繰り広げることの「危険」さ。
目にしているものは同じでも、これらの描写に対する「日本人が感じる危険さの度合い」と「それ以外の国の人間が感じる危険さの度合い」は決定的に違うはずだ。
人間にとってもっともアクチュアルな「破壊」とは、即ち既存の世界観の破壊であり、上記したような「特殊な世界」を身をもって理解しているのはこの地球で日本人しかいないからだ。
本作の海外の評判は知らないが、多分インド人とかに見せても死ぬほど退屈に思われるに違いない(?)。


これほどの名作を未だに見ていなかった僕のようなド素人が言うのも何だけど、アメリカやヨーロッパのオサレな映画ばかり見て、「邦画ってホントにつまんないよね」と口癖のように言っている人は、確実に人生でソンをしていると思う。批判や非難の意味で言うのではない。こんな素晴らしい作品の「共犯」になれる資格が生まれたその時点から与えられているのに、何故作者の片棒をほんのちょっぴり担ぐくらいの努力を拒むのかと言う事だ。オシャレじゃない?カッコ悪い?何を言ってるんだ、こんなカッコイイ映画は地球のどこを探しても日本にしかないぜ。


以下、印象に残ったシーンを箇条書きで。
・ジュリーが原子力発電所に忍びこむシーンの幾何学的な画面デザインと鈴木清順ばりのカメラワーク
・ジュリーが原爆を完成させたときにBGMとして流れるボブ・マーリィ
・愛猫が死んだときに見せたジュリーの何ともいえぬ表情の演技
・ジュリーが文太に初めて電話を掛けた時の似合いすぎのオカマ口調(今なら確実にやおい同人誌が1000冊は爆誕)
池上季実子のバカさ加減に振り回されて戸惑うジュリー
・ビルの屋上からBGMのスローモーションで撒き散らされる札束とそれに群がる群衆
・ジュリーが最後の文太との対峙で言われた台詞「お前が殺していいのはお前だけだ」


・・・・・・こうして見るとジュリーしか見てないな、僕。だってカッコいいんだもの。ラストシーンではBGMに是非「サムライ」を大音響で流して欲しかったぜ。「片手に〜ピストルゥ〜心にィ〜花束ァ〜♪」(←ブチ壊し)



太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]